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プレゼントの続き
誕生日を祝ってもらったのなんて、いつ以来だろう。
ホテルの最上階にある和食のお店で、寿司のコースと冷たい日本酒を味わいながらそんなことを考えた。
彼女のマンションに泊まった日から2ヵ月後、初めて彼女が誘ってくれたのだ。
「何かプレゼントしようと思ったんだけど」
一度言葉を切ると、バッグの中から小さな袋を取りだした。
「これなら普段にもしてもらえるかな、と思って。高級品じゃないけど」
袋の中にはケースに入った腕時計が入っていた。
「スマートウオッチ?」
「そう、どうかな?」
心配そうに僕を見る絢さんに
「うん、買おうかなって思ってたんだ。格好いいヤツだね。ありがと」
そういうと安心したような笑顔を見せてくれた。
僕のために何がいいか、と考えながらこれを選んでいる彼女が見えたようで、値段以上の価値があるような気がした。
その日の会計は、絢さんがサインを済ませ、店の人に見送られながらエレベーターホールへ。
さりげなく腕を絡める彼女に引かれ、なぜかその前を通り過ぎる。
奥までいくと階段口があった。
そのまま階段を降り始めるから、「階段で下まで降りるの?」と聞く。
ここは12階だ。
絢さんはううん、と首を振って立ち止まると、僕の顔を見上げながら、
「プレゼントの続きがあるの」
ポケットからカードキーを取り出して、僕に見せた。
「どう?」と言って、僕の表情を伺う。
それが、彼女の誘いにのるかどうかの確認だと気づいた僕は、「もちろん」と答えた。
突然のお誘いに、どんな顔をしたらいいか分からなくて、多分、はにかんだ顔になっていたと思う。
レストランの階からふたつ下に降り、客室へと向かう。
彼女がひとつのドアを開けて、どうぞ、という仕草をする。
ビジネスではない、セミダブルの部屋。
ゆったりとしたスペースに、大きな花柄のカバーの掛かったベッドがあり、奥まったところにはソファとテーブルが置かれていた。
テーブルの上には、デキャンタに入ったワインとグラスがふたつ。
その横には蝋燭が灯されて揺れていた。
荷物台の上にバッグを置き、脱いだ上着を彼女がクローゼットに掛けてくれる。
ネクタイを外し、身軽になった僕は、ソファの方へ歩いていった。
まだ厚いカーテンは開いていて、レースの白いカーテンが閉まっている。
その向こうに夜景が広がっていた。そのカーテンも開けてみる。
「綺麗ね」
同じように上着を脱いだ彼女が、ワインを開けて、グラスに注ぐと渡してくれた。
窓辺にふたり寄り添って立ち、ワインを味わった。
「お寿司、美味しかったね。あなたはきっと、フランス料理とかより、ステーキやお寿司の方がいいかなと思ったの」
そうだね、と頷いて
「ここは来たことがあったの?」と聞いた。
もしかしたら、他の人と来てたのかも、と思ったから。
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