可愛い人

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その日の夕方、近くのショッピングモールへ食材の買い出しに出かけた。 平日はそれなりにすれ違いも多いので、休日の外出はいつも一緒だ。 食事作りは、基本的に絢さんの担当だ。 食べることが好きだから、外食したときも「これ、家でも作れそう」といつも言っている。 僕がカートを押して、彼女がカゴに食材を入れる。 一人だと食べることを適当にしてしまいがちだけど、一緒に食べてくれる人がいるから、それなりに作る気になると言う。 最近は年齢のせいか代謝が落ちて、余分な肉がついてきた、と気にしている。 これからは、ふたりで身体を動かすようなことを始めよう、そう思って、ジョギングがいいか、ウォーキングか、それとも流行のゲームか何かか、と考えながら歩く。 彼女は、使い切れるだけを買う人なので、安売りをしているものに飛びついたりしないし、詰め放題なども決してやらない。 そういうところが現実的で、僕は好きだ。 半切れの大根の、上半分を買うか、下半分を買うかで迷った末に、切り落とされた葉が5センチくらい残っている上半分を選んでいた。 スーパーを出て、通路を並んで歩きながら、洋服の店のディスプレイを冷やかして歩く。 「あ、ちょっと薬局寄りたいんだ。先に本屋さんに行っていて」 「そうなの? 分かった」 帰りに本屋に寄ろうと話してきたので、絢さんは小さい方の買い物袋を持って、そのまま歩いて行った。 買わないといけないものがある。 薬局の、あまり人寄りしそうもないコーナーにあるもの。 …避妊具だ。 入籍以来、買ってなかったけど、彼女の身体のことを考えると、この先はそれが必要な気がしていた。 妊娠の可能性はゼロではないからだ。 そして、子どもを産まない、という選択をすることで、そういう行為をしない、ということには繋がらないと思った。 薬局を出て、紙袋に入れてくれたそれを、自分のバッグの隅に入れた。 本屋に行くと、絢さんを探した。 手に欲しがっていた雑誌を持ったまま、他の何かの本を熱心に見ている。 彼女の位置だけ把握すると、自分も欲しかった本を探す。 しばらくのんびりとあちこち見ながら、彼女に近づいていく。 「何を熱心に見てるの?」 隣に立って、脅かさないようにそっと話しかけると 「見て、これ。可愛いの」 手書きのイラスト画集だった。 平積みになっているその本のポップには 『韓国ドラマで話題沸騰。理想のカップル入門編』とある。 「前に見たドラマに出てきた本だ、と思って」 どのページにも同じカップルがいて、僕たちのような日常を過ごしている。 食卓で向かい合っていたり、ハグして夜景を見ていたり、窓際に座って、景色を見ながら何かを飲んでいたり。 「なんかこの男の人、雰囲気が千紘くんみたい」 「そう?」 「うん、あなたは眼鏡はしてないけど、優しそうなところが似てる」 「買うの?」 「どうしようかな、と思って」 「気に入ったんなら買ってあげる」 そう言って、そのイラスト集を自分の本の上に重ねて持ち、レジに向かった。 彼女も自分の雑誌を会計して、本屋を出る。 「帰ったら一緒に見よう? 楽しみ」 そう言って彼女は、さりげなく僕の腕に掴まった。
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