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Epilogue
その日の夕方、外回りの仕事を終えて、時計を見ると終業時間も過ぎていた。
会社に戻って、営業車を駐車場に入れると、自分の部署のフロアに上がり、今日の報告をパソコンに入力する。
その間にも帰る人がいて、フロアはざわざわしていた。
自分のスマホが鳴って、絢さんからのメッセージが来たことを告げる。
開いてみると
「今日は遅くなる?」との文字。
「もう終わるよ~♡」
「じゃあ、今日は外食しよう」
「分かった。一度帰った方がいい?」
「うん、待ってる」
それで急いで仕事を終えると、会社を出た。
この間、外食したばかりなのに珍しい。何かあったのかな、と思いながらハンドルを握る。
マンションの駐車場に車を入れると、絢さんが待つ家に帰る。
何気なく玄関を開けると
「お帰り!」
狭い玄関の端に、靴を履いた絢さんが、バッグを抱えて座っていた。
いきなりのシチュエーションに戸惑いながら、ドアの内側に入ると、立ち上がった絢さんが、バッグをそこに置いて僕に寄ってきた。
「あの仕事、決まったの! この間の会社の年間契約!」
そういって僕の首に抱きついてくる。
「そう! 良かったね、頑張った甲斐があったね」
鞄を持ったまま、片手で絢さんを抱きしめた。
「ありがとう! 千紘くんが企画書見てくれたおかげよ。客観的な意見がすごく役に立ったから」
よほど嬉しかったんだろう。靴を履いたまま待っているなんて、可愛い過ぎる!
「ねぇ、今日はあのイタリアンレストランで食事しよう? スーツのままで行こう? そう思って待ってたの」
そういう絢さんは落ち着いた柔らかなワンピースだ。レストラン仕様なのだろう。
「分かった。これは置いていくよ」
そういって上がりかまちのところに仕事鞄を置くと、ポケットに財布があることを確認して、絢さんの手を取った。
彼女はいつもの仕事用じゃない、小さめのバッグを手に、ふたりで家を出る。
本人は意識してないみたいだけど、ときどきこういう可愛らしいところを見せてくれて、また惹かれていく。
いつまでもこうして、手を握っていたくなる。
…いつもふたりで。
今日の空も、綺麗な夕焼けに染まっている。
レストランまでの道を歩きながら、入籍したときに彼女が言っていた言葉を、これからも大事に生きていく。
いつもふたりで…。
【end】
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