2022 Christmas Eve

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「うん、美味しいね」 「美味しい。酸味と苦みのバランスがちょうど良いね」 先週買い出しに行って、今年のクリスマスは何を飲もうか、と、デパートのお酒屋さんで聞いてみて決めたものだ。 僕はさっそく、皿の料理に箸を付ける。 「フォークじゃないけど、良いよね」 そう言って、絢さんは笑う。 「留守番さん、今日は電話来たの?」 「来たよ、やっぱり年末だからさ、今年中にやっておきたい会社もあるらしくて」 「そうなんだ。私もひとつ片付いたの。それで早めにご飯作り始めちゃった」 「良かったよ。腹ぺこだった」 昼飯は、会社に行く途中で買った弁当だった。 絢さんは、月曜締め切りの資料を作らなくちゃって言ってたから、それが終わったんだろう。 「いつからお休みになる?」 僕は、フリーランスの絢さんに聞く。 「月曜日に打ち合わせがあって、それで終わりかな。お正月がもう4日から仕事だから、千紘くんとずれちゃうね」 僕は29から、1月は8日まで休みだ。 前菜を食べ終わり、2杯目のスパークリングワインを飲み終わった後、絢さんが「はい、これ」と手に乗るくらいの包みを渡してくれる。 それで僕も、ベッドルームに置いてあったプレゼントを取りに行くと、絢さんに渡した。 「わ、格好いいな。ありがとう」 出てきたのは、革のミニ財布。カードとお札が数枚入れられて、箱形のコインケースが付いている。 外出したときの支払いは、ほとんどカードかアプリになったから、財布替えようかな、と話していたところだ。 ちゃんとリサーチされていたと言うわけだ。 「…素敵」 絢さんへのプレゼントは、カシミヤとシルクのネックウォーマーとお揃いのアームウォーマー。 ネットで検索していたとき、落ち着いたパープルグレーの色合いに一目で惹かれた。 「絢さん寒がりだから、家にいるときもそういうのあればいいかなって。マウスを持っていると、手が冷たいって言ってたでしょ?」 うん、と頷いて、さっそく付けている。 「暖かい。やっぱり首を温めるのって大事なんだね。それにとても良い色ね」 「僕もその色が気に入ったんだ。僕の気に入ったものを、絢さんに贈ることができるって良いな、と思った」 絢さんは、ひとしきりそれを付けて「汚すといけないから」と外すと、自分の仕事用机に置いていた。 そのままキッチンへ入り、圧力鍋の蓋を開ける。良い匂いが漂ってくる。 白い楕円のお皿に入ってきたのは、ビーフシチューだった。 「これも一緒にね」 斜めに切ったバケットも添えてくれる。 「クリスマスだけど、チキンじゃなくてビーフ」 そう言って、絢さんは笑ってる。 僕は、絢さんのグラスにワインを満たすと、さっそくスプーンを手にする。 「私って、やっぱり食べることが好きなんだな、と思った。何を作ろうかなってネットで探しながら、あれもこれも食べたくなって」 バケットをちぎって、シチューを付けながらそう言う。 「僕はその恩恵に預かれるんだから、幸せな夫っていうところかな」 スプーンで肉の塊をほぐしながらそう言う。 「でもね、やっぱり千紘くんが一緒に食べてくれるからなんだろうと思う。  こうやって、クリスマスを楽しめたり、食べてもらって喜ばれると嬉しいのも、千紘くんがいるからだよね」 ありがとね、と絢さんは言う。 「…もう、キスしたくなるよ」 僕は照れて、そう言ってごまかした。 絢さんはふふふって笑って、「後でね」と言ったけど、僕はテーブル越しに身を乗り出した。 目を閉じて、しばらく待つ。ふっと唇が触れた。 目を開けると、顔を見合わせて笑った。 食事のあとを片付けて、僕はコーヒーを入れる。 絢さんが、今夜見たいと言っていた少し前の映画を、パソコンからプロジェクターを通して映し出す。 二人で毛布に包まり、ソファに並んでその『34丁目の奇跡』を見た。 絢さんは感動屋だから、すぐに涙ぐむのを、僕の腕に包み込んでやる。 特別なことはそれほどない。だけど、ちょっとだけいつもと違う夜。 ふたりでいるから、なんでもない日常が楽しめる。 僕らはずっとこうやって、ふたりで生きていく。 いつもふたりで…。
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