下心

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その後、彼女の言うように2回セミナーをやって、その都度、僕はアンケート結果を持ってオフィスを訪ねた。 2回目の時、彼女の提案のように3回目の座談会をやることを伝え、日程をどうしようか、ということになった。 壁に掛かっていたカレンダーを振り返って 「あ、まだ捲ってなかった」 月が変ったのに、前月のままになっている。 立っていって、カレンダーの下の両端を持ち壁のフックから浮かすと、下に降ろした。 遠くから見ても分かる、数字の大きな、大判のカレンダーだ。 捲ったカレンダーをたわませて持ち、上部の穴をフックに引っかけようとしている。 馴れているらしいけど、なかなか穴に入らなくて、ちょっと笑っている。 「あ、掛かった。すみません」 そう言って笑いながら席に戻ると、 「第2週のどこかなら、大丈夫かと思います」 カレンダーとスケジュール帳を交互に見ながらそう言った。 僕はなんだか微笑ましくて、きっと笑ってたと思う。 その雰囲気のまま、候補日を決めると、コーヒーをごちそうになった。 前のコーヒーとはちょっと味が違う。どうやらかなりのコーヒー好きらしい。 「向井さんはこちらのご出身ですか?」 僕は少しずつ探りを入れる。 「いえ、うちの両親は転勤族なので。ここは高校時代を過ごしたところなんです。  その後、大学に行ったので、また違うところで。でも、就職するなら適度な都会のこの辺りがいいな、と思って」 「そうなんですか、どちらの高校ですか?」 彼女は、丘の中腹にある高校の名前を挙げる。 「永井さんは、こちらですか?」 「そうです、地元で」 中学と高校の名前を挙げると、 「あ、それなら高校は弟と同じです」 「弟さんは、何年生まれですか?」 そう聞いてみる。この範囲なら失礼にならないはず。 「それなら、僕の先輩ですね、ふたつ上だ。僕が1年の時、3年になる」 「わ、そんなに年が離れているのね、私と」 彼女はそう言って笑った。少なくとも3つは上、ということだ。 「永井さん、年より若く見られませんか?」 「そうなんです、童顔なんで」 顎が細く、目が丸い。実は髭も比較的薄いので、学生のような顔だ、とよく言われる。 「33よね」 年齢のことだ。 「僕にも姉がいます。4つ上の」 「そうなんだ、でも私、もっと上ですよ」 やだなぁ、と身体を椅子の背にもたせかける。 「だから、最初に会ったとき、あまり緊張せずに済んだのかも。そういうことにしておきます」 そういって、彼女は笑った。
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