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忙しく仕事をしていると夕方になった。時計を見ると五時十五分。蒼汰が彼女と待ち合せしたのが五時だからここに来るとしたらもう来るだろう。私は胸がドキドキしてきた。
フロントに春香さんが来た。ここは交代制で前回会ったときは私がちょうど休憩からあがるときだったが今回は私がフロントなのに堂々としている。私はカマをかけた。
「春香さんじゃない。旦那さんと一緒?」
「まさか。旦那は今日仕事だよ。三時から当直なの。雪が酷かったら泊まろうと思ってるの」
私はカチャカチャとパソコンを打った。
「残念ながら今日は泊まりがいっぱいなの。家に帰ったほうがいいんじゃない?」
「ここが満室だったら他に泊まるよ。それにしてもこんな小さいホテルがよく流行るよね。安いからかな」
春香さんは嫌味っぽい笑いを浮かべる。私は横を向いた。顔を見ていたら腹が立つばかりだ。
「あの、知りあいなんですか?」
もう一人のフロントの女の子が言った。そうだ。あくまでこれは仕事なんだから余計なことを言ったらいけない。私は頷いて休憩所に行った。棚に置いてあるバッグから缶コーヒーを出す。カフェインだけよりはカテキンの入った緑茶のほうが落ち着きそうだがこれしかない。
六時になったので制服を脱いでセーターにロングスカートを穿いた。裏口から外に出ると夫が立っていた。
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