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「雪だから心配で迎えに来たんだ。自転車は置いて二人で歩いて帰ろう」
私は胸がいっぱいになった。そのとき春香さんが泊まっている部屋の明かりが消えた。
「少しホテルの前を張ってもいい?」
「急に何を言い出すんだ」
「蒼汰がここで休憩してるみたいなの。人妻相手かもしれないの。スリルがあるなんて電話で言ってたんだよ」
「ああ、それは心配だな。レインコートを持って来て良かった。傘だと目立つだろう」
私たち夫婦はホテルの表玄関のほうに回ってホテルの陰に隠れた。夫は背中に手を回して来た。
「お前が蒼汰を大事にする気持ちは分かるよ。でももう大人なんだ。相手が誰であろうと怒らないようにしよう」
「気にいらない相手でも許せっていうの?」
「相手が誰だか分かってる口ぶりだな。心当たりがあるのか?」
私は下唇を噛んでから言う。
「隣の家の春香さんかもしれないの」
夫は目を大きく見開いた。そのときベージュのチェスターコートの人が出て来たのが分かった。春香さんの着ていたコートだ。横に男性がいるのが分かる。黒いダウン。蒼汰のアウターと同じだ。私は後を追おうとしたがさっさと行かれてしまった。
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