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私は足あとを見た。春香さんの履いていたショートブーツの横にSの字の靴底のあと。蒼汰の靴だ。私は走って二人に近づいた。蒼汰が振り返った。
「まさかと思ってたけどなんで春香さんが彼女なの?」
「ちょっと待ってよ。勘違いだよ。春香さんとは偶然ホテルの廊下で会ったんだ。僕の彼女は大学生だよ」
私は膝の力が抜けた。
「本当に本当?」
「ああ、今週の土曜日にでも紹介しようと思ってる。千葉から出て来て東京の親戚の家に住んでる子なんだ。一つ上だけど、サークルで知りあったんだ。親戚のオバサンが煩いらしくてさ、泊りなら実家に帰るっていいなよって言ったんだけど雪が大丈夫そうだから帰ることにしたんだよ」
私はホッとした。でも春香さんが浮気をしていたという事実がある。罰があたればいいのに。そう思ったときに春香さんが口を開いた。
「私はあのホテルで親戚の子に勉強を教えてるの。シティホテルって集中できるからいいんだよ。でもさ前に町内会の集まりで嫌な雰囲気にされたことがあるでしょ。だから言わなかったの」
なんだ、そうか。すべて私の勘違いだったんだ。蒼汰の傘に雪が降り積もる。夫が横に来て笑顔になった。
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