足あと

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 今は朝だ。私はよく焼けた鮭を皿に乗せると蒼汰の前に置いた。味噌汁はなめこ汁だ。夫はまだ寝ている。正月休みが終わって初めての土曜日だが正月にのんびり休んだことなんか無かったかのようだ。九時までは寝ているだろう。 「パソコンを買って、いい小説が書けたら賞に応募したいんだ。僕は賞金を貰ってフレンチが食べたい。お母さんを連れてってやるよ」  私は嬉しくなって目尻を下げた。蒼汰は味噌汁を啜る。 「蒼汰のペンネーム教えてよ。お母さん、読んでみたい」 「恥ずかしいからダメだよ。友達にも言ってないんだ」  そうなんだ。いったいどんなジャンルを書いているのだろう。 「どんなものを書いてるの?」 「恋愛が多いよ」  恋愛、そういえば彼女がいるって聞いたことがない。外見はとてもいいのに不思議だ。でも想像で書いてるんだろう。この子は小さいとき作文が得意だった。きっと賞が取れるだろう。 「ご馳走さま。学校に行ってくるね」  蒼汰はそう言ってダウンジャケットを着た。今日は気温が十度いかないという。私もダウンを着よう。パートには自転車で行っている。 「行ってらっしゃい。無理してバイトしないようにね」 「うん、先に寝てていいから」  蒼汰はそう言って私がクリスマスにプレゼントしたスニーカーを履く。靴の裏がSという字になっているものだ。蒼汰のイニシャルのSだ。靴屋で見つけた時、これだと思った。
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