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次の日は五時に目を覚ます。歳をとるにつれ睡眠時間が少なくなった。私は洗面所に行って冷たい水で顏を洗った。
朝ごはんは赤魚を焼いた。大きいので一つしかグリルに入らない。まあ、夫を送り出してから蒼汰とゆっくり食べよう。時間は十分ある。
焼けた魚を皿に乗せてテーブルに置いた。赤魚だけだと寂しいから浅漬けも付けた。夫は眠そうに食べた。
バタバタと夫が出掛けてからリビングで一人になった。スマホで蒼汰が投稿しているサイトを見た。恋愛のジャンルで五位に人妻と浮気する大学生の話があった。人妻と浮気。嫌な予感がした。怖くて読めなかった。
蒼汰は七時に起きて来た。グレーのセーターにデニムパンツだ。茶色く染めた髪がとても柔らかそうだ。
「お母さん、今日はバイトがないけど遅くなるよ」
「彼女と会うの?」
私はドキドキしながら訊いた。
「ああ、バレてるんだから隠すことないな。そうだよ」
「昨日も言ったけど、絶対に今度連れて来て」
蒼汰は肩を竦めた。
「朝ごはんは赤魚を焼くね。待っててくれる?」
「分かった。家は朝に魚が多いな」
「魚には栄養がたくさん含まれてるんだって。蒼汰には大学で勉強を頑張ってもらいたいもの」
私は口角をあげた。
「僕はいい遺伝子を受け継いでるから大丈夫だよ。お母さんもお父さんも学生のときは成績が良かったんだろう」
私はいい大学をいい成績で卒業した。編集者に就職が決まって企画部に配属された。入社して三年目にIT関係の会社と合コンになってそこで夫と知り合った。付き合い始めてすぐに蒼汰をお腹に宿した。編集者を産休や育休で休んでもよかったが夫がパート勤務を望んだのでシティホテルで仕事することに決めた。女は損だ。
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