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「卒業したらどんなところで働きたいの?」
「小説を書くのが好きだからお母さんと同じ編集者がいいと思ってる。今も書いている小説が恋愛ジャンルで上位にあるんだ」
私は例の人妻と浮気する学生の小説を思い出した。頭を振って否定する。蒼汰が春香さんと浮気するなんてことはあり得ない。
テレビからはニュースが聞こえてくる。今日の関東地方は雪になるのだそうだ。交通網が麻痺しなければいいが。
「雪だって言うからあまり遅くならないようにしてね」
「ああ、十一時までには帰るよ。夕飯は食べてくる。バイト代が入るんだ。パソコンの為に貯金したいけど、イタリアンを食べるくらいは使いたい」
そういえば隣の春香さんもイタリアンが好きだった。偶然だろうが気に掛かる。
私はキッチンに行って朝ごはんの準備をした。浅漬けも小皿に盛った。今日も十時までに職場に行けばいいのだが蒼汰と朝ごはんを食べよう。
赤魚を焼いていると突然、蒼汰のスマホから着信音がした。我が家はオープンキッチンなのでリビングの様子はよく分かる。蒼汰はスマホの画面を見ると隣の和室に行った。彼女からだろうか。私はいけないとは思ったが我慢出来なくてそっと和室の襖に耳を付ける。
「え、今日もお母さんが勤めてるシティホテルに行きたいの?別行動すればどうにか誤魔化せるかもしれないけど心臓がもたないよ」
やっぱり彼女からだ。私はかあっとして顔が熱くなった。どんなに大事に蒼汰を育てたか彼女は知らないくせに。
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