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「分かった、分かった。じゃあ今日は講義が早く終わるから五時に駅前で待ってるよ。雪?帰れなくなったら理由をつけて二人で泊まろう。家族には実家に行くとでも言いなよ」
家族……。やっぱり人妻か。私は血の気が引いた。春香さんじゃなければいいが。あの人は四十代なのに短いスカートを穿いて濃い化粧をしている。身に着けているものは旦那が医者だからかブランドものばかりだ。蒼汰と付き合っているとしたら金持ちの遊びなんだろうから。
蒼汰は電話を切ったようだ。私は急いでキッチンに戻る。彼女は誰なのか問い詰めたいが怖くて出来ない。
朝ごはんを食べて窓を見ると雪が降り出していた。私は積もりませんようにと祈った。
「じゃあ、行ってくるからね」
「うん、気を付けてね。十一時には帰って来てよ」
私は蒼汰を送ったあと洗い物をして掃除をした。そして九時半になったので家を出た。薄っすらと道路が白くなり始めていた。
シティホテルに着いた。制服に着替えてフロントに立つ。パソコンを見ると夕方からの予約が多かった。この中に蒼汰がいるんだ。名前を一人一人確認する。春香さんの名前があった。横川春香、間違いない。シティホテルは他にもあるのにここを選ぶのは私への挑戦状みたいだ。そういえば町内会の集まりで春香さんをのけ者にしたことがある。子供がいないから町内会なんか関係ないだろうと思って春香さんだけ会話に加わらせなかったがそれを恨んでいるのだろうか。
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