打上花火とソウルフード

8/10
前へ
/49ページ
次へ
「いや、今日はいいっす。帰ります」と言いかける私を先輩は鋭い目つきで見つめた。 「お前、断れると思ってんの?」っていうそういう目付きだった。 私は頭の中で計算した。 この場で断ってぼこぼこにされるのと、焼き肉食って家帰ってシャワー浴びてそのまま出勤するのと、どっちがいいかな? 答えはね、どっちもよくない。 そう、どっちもよくないんだよ。なのに、次に覚えているのは高級焼肉店の個室で先輩方に囲まれて座る自分の姿。先輩方は上機嫌で、次々と私の皿に焼肉を入れてくれる。とりあえずサクサク食べて帰ろう、そう思った矢先にね、先輩の一人が言った訳。 「そんでさ、お前例の〇〇条約についてどう思う訳?」って。 月曜日の、夜中の二時、焼き肉を食べながら、○○条約についてどう思う?って。 その条約が何だったか、もう忘れちゃったよ。なんかでも、国家の安全にかかわるなんとかみたいなそんなんだったと思うんだけど。 「どうも思いません」って私は言ったね。 「今、私はどうやって早く食べ終わって帰って寝るかだけを考えているので、〇〇条約についてはなんとも思いません」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加