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夕立にさようなら
ザーっと降り出したのは夕立。
商店街の屋根で距離をおいて雨宿りする男女、私服姿の夏里太と優杏。
「やっぱりいたね」
「まあね······なんていうかアタシたち、ほらっアレだから」
「今思い返してもバスケの試合、感動した」
「へへっ、二回戦目で負けちゃったけどね」
「でも、なんだか······なんて言うんだろ、その、元気、だね」
雨が少し強くなった。
「元気、か。悔しい気持ちもあるけど、でも、あそこまでいけて嬉しかったかな」
「そうか、よかった」
「······あれから、お母さんの具合は?」
「元気だよ、今は生きてるってことに、すごく感謝してるって言ってた」
「よかったね」
「うん」
あのとき手術を終えたお母さんは夏里太を呼び出し、優杏の試合を応援に行ってあげなさいと迷っている彼に助言した。しかし、今さらと思って落ち込んでいると、
「お母さん、夏里太が笑顔でいてくれて、その時だけ不安な気持ちを忘れられたわ」
「母さん」
「たぶんその子も、今あなたのことを心配してるはずよ『言いすぎた』って。このままだと2人とも後悔するとお母さん思う」
その言葉にハッとして「優杏っ!」
――ザーッと雨はまだ、止まず。
「あのとき、ほんとうに来てよかった。もし試合を観に行かなかったら僕は一生後悔してたって思う、絶対に」
「ふ〜ん」
なんだか嬉しそうな優杏は両腕を伸ばし背伸びをして、
「う〜んっ、次はきっと後輩が優勝してくれるだろうから心配ないし、これからどうしよっかな〜」
「進路に悩んでるの?」
「べ〜つに······よくよく考えたらさ、アタシたちって、ただ夕立のときしか会わないっていうか」
「うん、そうだね」
雨が少し弱くなってきた。
「······そっ、じゃっ、雨も弱くなってきたし行こうかな〜」
「優杏、さん、あのっ」
なになにっ、と何かを期待し振り向く彼女。
「あ、握手」
「あ、うん」
優杏にはお母さんの事でと握手をした。でも、なんだか寂しそうな彼女。
「んじゃ、これでいいよね」
「う、うん······」
目をつぶり何かを諦めたような優杏は背中を向けて、
「あのさ、私たちもう夕立になっても会うの止めよう」
「えっ」
「なんていうか、勘違いされてもお互いのためにならなじゃん······じゃ」
何かを期待した自分が恥ずかしいと、もう、彼には会わないときめた。
そんな、と自分の身体の中で聞こえたとき、
サッ、夏里太は優杏を後ろから抱きしめてた。
「優杏っ、こんな臆病な僕だけど、そんな僕に君が元気になることで周りの力になるって気づかせてくれた。だから、そんな君を失いたくないっ、から、つ、付き合って、くれないかな」
雨が止んでいく。
優杏の顔が笑顔なると、
ボコッ、
「はうっ!」
夏里太のお腹をパンチした。
「ゆ、ゆあん?」
「おーそーいっ、どう考えたってそんな雰囲気だったでしょっ!」
「ぼ、僕も勇気をだして」
「まあ、アタシを後ろから抱きしめたのは、その、思っても見なかったっていうか、嬉しかったっていうか」
「じゃ、じゃあ返事は」
「そ、それは、お、OKっていうか······あたしも、ていうか」
顔を赤らめながらも強がる彼女にぷぷっと少し笑えてくる夏里太。
「あ、笑ったな、いつまで苦しそうにしてんのよ!」
「いや、優杏が強く殴るから」
「え、あたしそんなに強く打った?」
「なーんて、嘘だよ〜、もう治ってました〜」
「こんのーっ、心配かけやがって〜」
何だかんだイチャイチャして、両思いだった2人。そんな彼らは気がつくと外は晴れていた。
「「あ、晴れてる」」
そして、
「虹だ」
「虹だ······このあと夏里太は、どうするの?」
「まだ夏休みだし、優杏は?」
「あたしは、別に」
すると、スッと笑顔で右手を出す彼は、
「じゃあ、歩きながら一緒に考えようよ、優杏」
「へへっ、うん、夏里太」
笑顔でその手を左手で掴んだ彼女だった······。
これ以降、彼らは夕立で出会うということはなくなった。それだけ一緒に会っていて夕立に愛想つかれたよう。でも代わりに彼らを祝福するかのように虹を見かけるようになった、とか······。
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