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試合
「――母さん」
「いってくるわ」
家族が見守るなか、お母さんの手術が始まったのは午前7時、手術時間は3時間ほどで夏里太家族は祈り始める。
ダンッダンッとバスケットボールを弾いて朝早く公園一人試合に備えていた優杏、
「ふっ!」
パサッ、
朝の日差しを浴びながら今日の試合の事を考えると頭の隅にやっぱり夏里太のことが気になる。たしか今日がお母さんの手術、でも時間までは知らない。やっぱりちゃんと謝るべきだったか、でも思い返すと今でも彼には元気な姿でお母さんに······考えても答えは見つからない、そして仲間とともにバスで試合会場へと向う時間となっていく。
――午前9時50分頃、手術のランプが消えてベッドが運ばれる夏里太のお母さんは姿を見せると、
「あ、母さんっ!」
「夏里太、あなた」
医者の人も手術は成功ですと話すとホッと方を撫で下ろす家族だった。なにわともあれ無事で良かったと。
病床に運ばれたお母さんを追いかけようと膝を上げて歩いていくと、運んでいたお医者さんの人が
「お母さんが夏里太君を呼んでいるわ」となんだろうと足を進める······。
午後1時、他のチームの試合が終わり次に優杏たちがコートに入った。キュッキュッとシューズの音が響き試合会場ではウォーミングアップをする選手たち。初戦の相手は前回のインターハイベスト7で、優杏たちのチームはベスト15位以下と相手は文句なしの強豪であり不安な人もいれば燃える人など気持ちは様々。
「集合っ」
両キャプテンの合図で監督の元に集まり話し合う。会場には両者の応援する生徒やチアガール、家族や友達の姿なども来ていて旗を持つものやペットボトルなどそれぞれ創意工夫で応援している。
そして両チームがコートに立ち自身のポジションへ、審判がバスケットボールを持って両のジャンパーが配置されると、
ボールが空を舞い次に両のジャンパーも舞うと試合は始まる······。
その頃病室で夏里太に何かを話したお母さんの病室に彼の姿はなかった。
――午後の晴天に鳥は木陰に隠れ真夏の暑さを凌いでる中、会場ではその暑さを超える応援と戦いが繰り広げられていた。
優杏がパスをして上手く回すのが役目、PGで攻めや守備のときに指示を出し、ボールを運ぶなど重要なポジション。
第1クォーターは同点23の様子見のような試合展開。しかし続く第2クォーターでは相手のベスト7の実力を出してきて55と43と10点以上離されてしまった。
そのまま第3クォーターでは69と60と点差は僅かに縮まる、それは相手チームのエースが優杏と同じPGで彼女が相手をしていたためなんとか離されずにすんだ。
そしてインターバル、
「いいかっ、次はうちに流れが来るっ!」
「「はいっ」」
「優杏っ、お前がカギだ、わかってるな」
「ええっ、アイツを抑えてあたしらが、勝つっ!」
優杏にみんなの期待がかかるもそれは自分が1番わかっている。絶対に相手のPGは止めてみせると強く誓う。
そんな緊迫した雰囲気の優杏たち、一方で会場のお客さんはざわつきはじめていた。
「え、まじかよ」
「そうなのよ〜、ま〜たぶん夕立だから」
えっ? 夕立。
観客の言葉が、会場下の優杏の耳が拾う。
まさか、
優杏は会場上の応援席を急いで見渡すとそこに、
「ゆあ〜んっ!」
「夏里太!」
遠くてもわかる彼の笑顔の姿、さらに目が合うと両腕で大きな丸を作る夏里太。
お母さんはの手術が成功したこと、彼の笑顔を見て怒っていないこと、すべてを悟った優杏。そのことが彼女も気づいていないほど小さな不安が解消され不思議と胸の奥から湧いてくるムズムズに優杏は笑みを浮かべる。
最後の試合が始まり、負けられない雰囲気の中チームメイトも優杏の闘志に感覚で気づきボソッとあだ名を言う。バスケをする彼女のあだ名は捕食者······。
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