◇酔い

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【side 彰】  ……あれ? なんか、仁、普通……? 「ごめん、遅くなって。食べててくれて良かったのに」  剣道から帰ってきて、シャワーを浴びて出てきた仁は、普通に笑顔でそう言った。 「もっと遅くなるなら先に食べようかと思った、けど……」 「ありがと。食べよ。準備手伝う」 「……うん」  ――――……なんか。今日の塾のバイト中も、全然目を合わせてくれないし。余計な事話さないし……だったのに。 「――――……仁?」 「ん?」 「……」  なんて言おう。  そう思って一瞬言葉に詰まってたら、皿を出してた仁が、一度置いて、彰を見つめた。 「……ごめん、彰」 「……」 「―――……態度悪かった、オレ」 「――――……」 「……やな思いしたよね。ごめん」 「……いや…… ていうか…… オレが、何かしたんじゃないの?」 「してないよ」 「でも……」 「……酔っ払いすぎてて……ちょっとむかついたけど」  ――――……。  それを言われたら、何も言えない、のだけど。 「……ほんとに、それ?」 「そうだよ」  本当なのか分からないけど、仁は、まっすぐ、彰を見つめてくる。 「……こんな態度良くないと思って。……反省してるから、許して」  隣で、少し困ったように笑う、仁。 「……オレこそ、……なんかごめん」  彰がそう言うと、仁は、じっと彰を見つめてから、首を横に振った。 「彰は謝んなくていいよ。ほんとごめんね」  言って、仁がまた皿を持って、テーブル置きに行った。 「……この話、これで終わりでいい?」 「――――……オレは、いいけど……」  仁、ほんとにそれで、ここ2日間ずっとあんなだったの?  そりゃ迷惑かけたかもしれないけど……。 「仁、いいの?……ほんとにそれだけ?」 「……彰、飲みすぎ禁止な?」 「――――……ん、分かった」  ――――……ほんとにそれだけだったかよく分からないけど。  もう、それ以上は言わないんだろうと思って、そこで諦めた。  ご飯を一緒に食べ始めると、仁が今日の道場の話をし始めた。 「今日少し早く行ったから、小学生の子達が居てさ。すげえ可愛かったよ」 「そうなんだ。こないだの子、居た?」 「居た居た。 めっちゃ懐かれた」  そっか、と笑う。 「可愛かったよね、あの子」 「うん。可愛い。一生懸命で。結構筋良いと思う」 「そうなんだ」  普通の、笑顔。  楽しそうな、優しい、喋り方。    いつも通りの仁。  ほっとする。仁の視線が、普通に絡むのが、嬉しいと、感じる。  でも――――……心の端で気になる。    酔っ払いすぎたからって…… あんな怒るかな?  ……玄関からベッドに運んだ位で、仁がそんなに怒ると思えないのに。  でも、何をしたか、分からない。  ――――……オレあの日……酔っぱらって帰ってきて、寝ちゃっただけ、らしいし。で、起きて会った時には、もう、仁は、変だったし。  ……何も、する暇ないと思うのだけど。  でも仁の態度は、それだけなんて、思えないのに。  納得いかないけど。  仁は、もう何も話さないと決めたみたいだし。  これで――――……いいのかな……。  聞きたい事も聞けず。  言いたい事も言わずに。  このまま――――……。  楽しい空間だけ守っていければ、いいのかな……。 「彰、オレ明後日はランチからバイト入るからさ。……来る?」  そう聞かれて。  こないだ約束もしてたし、行く、と頷いた。すると仁は、嬉しそうに笑う。 「まだ料理は作ってないけど。ホールに居るから、コーヒーはオレが淹れて持ってく」  笑顔で言う仁に、うん、と笑い返す。 「……仁、あのさ」 「ん?」 「……昨日から変だったのって…… オレが酔っぱらってたから?」 「……そうだよ?」  また話を戻した彰に、静かに笑ったまま、仁は頷いた。 「酔っぱらって……何か、した?」 「何かって?」 「……暴れたとか、なんか……いやな事、言ったとか」 「……してないよ。ごめん、ほんとに大した事じゃなかったんだ。もう気にしないで、彰」 「――――……分かった」  笑顔で言われると。もう、頷くしかできない。  本当なのかも、よく分からない。  ただ頷いて。  たぶん敢えて、楽しそうに話してる仁と、同じように笑顔で話して。  その日は、食べ終わってからもお互い部屋には戻らず、寝るまでずっと、一緒に、過ごした。 (2021/4/10)
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