Stay with me

◇違う

「彰、ほんっと、気を付けて。オレ居なかったら、頭打ってたかもよ？　　死ぬんだよ、後頭部とか打ったらさ」

「分かったってば」

　塾のバイトを終えて、昼ご飯を食べて、買い物をしての帰り道。
　もうここまでで、何回、同じような事を言われたか。

「……ていうか、 仁が呼ばなかったらオレ振り返ってないから、落ちてないし……」

　さっきからちらっと思ってた事をついつい言ってしまうと、仁が、えっと驚いた顔でこっちを見てきた。

「え、待って、オレのせい？」
「……いや、違うけど……だってもうしつこい……」

「つか、呼ばれたってなんだって、落ちんなよっつー話だろ」
「……その通りだけど……」

　はー、とため息。

「もー仁、分かったってば、本当に気を付けるってば」
「……オレ、正直、さっき縮まった心臓、今もそのままな気がするからね。確実に寿命縮まったから」

「だからーごめんってば……」

　もはや可笑しくなってくる、レベル。

「ほんとに気を付けるし、大量の荷物抱えてる時はもっと気を付けるから」
「だから手分けして持つって」
「……はい。　ってさ、オレ、人生で階段おちたの、初めてだからね、もう無いって」
「無いとは限んないだろ、オレ、言っとくけど、落ちた事ないからな。1回落ちたんだから、彰はもっと注意しろよ」
「――――……はいはい。分かりました」

「はいは1回！　ちゃんと聞けよな」
「……はい」

　そこでやっと、仁が黙る。
　はーよかった、終わったかな？

　ちら、と仁を見ると。

「……なんかさーああいう事があるとさ」
「うん？」

　仁の声の調子が変ったので、首を傾げて、仁を見やる。

「こうして、普通に暮らしてられるのもさ……　当たり前に続くと思ってるけど……　違うのかなって思うとさ――――……」
「うん……？」

「――――……なんか色々思うとこがあるんだけど……」
「……どういう事？？」

「……なんか……　時間かけて、色々頑張って……とか思ってる事もさ……　どうなんだろ、とか思った訳……」

「……ふうん……　まあでもさ。　いつ死んでもいいようにさ、毎日生きれたら、いいなとは思うけど――――……」
「……けど？」

「――――……なかなかそうは、いかないよね。……長く生きるっていう前提で、色々考えるもんね……」

「でも、死ぬ瞬間後悔すんのは、嫌だなって、さっきのせいで思ったよ」

　仁がため息をつきながら、そう言った。

「なんかオレが転がった事くらいで急に難しい事考えてるし……」
「考えるよ。　だって、もう、一瞬で色々考えたし」

　苦笑いのオレに、仁は眉を顰めてる。

　死ぬ瞬間、後悔、かぁ……。

　……もし、さっき死んでたら、
　……死んだオレは、何を後悔したかな。

　明日死ぬなら――――……　オレ、今日、何して過ごすかなー……。

　さっき、1人で教室で少しだけ考えた事が、さっとよぎるけれど。
　ひたすら、無視して、心の奥底に押しやる。……考えない。

「……とりあえず、やっぱり、ちゃんと注意しろよな、彰」
「……分かったってば……」

　またさっきの話に戻った……。もー、仁……。どんだけなんだ……。

　苦笑い通り越して、呆れ笑いになってしまった。

(2021/3/24)