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とりあえず考えてくるって事で亮也と別れて、買い物をして、家に帰ってきた。仁が帰ってくるまでは、まだ時間がある。
炊飯器の予約スイッチを入れてから、ジャガイモの皮をむき始める。
ゆっくりしかできないけど、大分、包丁の持ち方も様になってきた気がする。
――――……1人で作って待ってるのもいいけど、やっぱり一緒に作ってた方が、楽しいし、捗る気がするなー……。
「――――……」
1人になって、落ち着いて、よく考えてると、
――――……亮也の事、大事ではあるんだけど……。
そういう意味で好き、とか、愛してる、とかいう訳じゃないから、やっぱり付き合ったりしちゃいけないんだと、根本的な所に行きあたった。
亮也とセフレになったのだって、あの感じに流されまくったから。
……オレ、たぶん、亮也のああいう所に、もうほんとに弱いんだと思う。
あんまり理屈とかじゃなくて。
考えさせられないようにしてくる、というか。
一緒に居たいから。
一緒に気持ちよくなるだけ。
男も女も、気持ちいい事するだけだよ、変わんないよ、なんて。
そんなような言葉たちに、ふわふわと流されて、一緒に居てしまえば居心地が良くて。なんか、きつく抱き締められるというよりは、ほんわかと囲われる感じで、いつも過ごしてきた。
亮也じゃなかったら、男とそんな関係になってないし、
亮也とそうなった事、後悔も、してない。
亮也とも、女の子達とも、セックスした後に、襲ってきた罪悪感は、たぶん今となって思うのは、仁を置いて逃げた事からきてたものだったんだと思うし……。
亮也とそういう関係をもった事自体は――――……。
全然嫌じゃなかった。
セフレをやめたいと言ったオレに、恋人になりたいなんて、言うとは思ってなかったから、びっくりしたけど。
まあなんか……亮也らしくは、あるけど。
料理の本通りに進めて煮込みながら、サラダを作り始めた時。
チャイムが鳴って、仁が帰ってきた。
考え事してると、すぐ気づかれるので、息を吸い込んで、深呼吸。
「おかえり。お疲れ」
「ん、ただいま」
笑顔で出迎えると、ふ、と仁も笑う。
「どーだった、ランチタイム」
「すっげー忙しかった」
言いながら鞄を自分の部屋に置いてきて、洗面所で手を洗う。
「あの店、店長が30代くらいの男の人なんだけどさ。すげえ料理うまいの。今日初めて昼食べたんだけど、ほんとうまかった。オレも習って少しずつ作ったりもするからさ、覚えてきたら、家で作るね」
話し続けてるので、彰も洗面所の入り口に立って聞いてると、仁はそう言いながら楽しそうに振り返る。
「うん。今日は、何食べたの?」
「チキンのクラブハウスサンド。うまかったよ」
「へえ。今度行く時、ランチにいこっかな」
「ん、いいよ。……あーいいけど……」
「ん?」
「ランチタイムはセットあるから安くなるけど、混んでる時は、ほぼ、客、女の子ばっかで。彰1人だと目立つかも」
「別に気にしないけど……」
「気にならないならいーけど、結構女の子、きゃーきゃー言ってる感じで、うるさいかも。16時位とかのがすこし静かでいいよ。それだと、結構休憩のサラリーマンとかも多いからさ」
「んー、でも16時にサンドイッチ食べないしな……」
「んじゃあ、彰がランチに来る日は、なるべく静かな席、あけといてあげるよ」
クスクス笑って、仁がそう言う。
「仁シャワー浴びる?」
「ん、先浴びて良い?」
「うん。ご飯、仕上げとく」
「ありがと」
ドアを閉めて、キッチンに戻る。
煮込んだ肉じゃがの味見をして、皿に盛り付ける。
サラダとみそ汁と、ご飯をよそって、テーブルに並べてると、仁が戻ってきた。
――――……風呂上がり直後のシャンプーの香りは、今もするけど。
……あの時みたいに不意打ちじゃなければ、最初から分かってれば、少し、心にひっかかるくらい。
仁の、まっすぐ大事にしてくれてるみたいな態度に、少しだけ、何となく心が動くけど、これも別に、普通の事、にもできる。
抱き締められるとか、あれは強烈だけど、オレが泣いたとか、階段から落ちたとか、バカな事しなければ、仁からはしてこない。ていうか、あれは仁にとっては、不可抗力、みたいなもんだったろうし。
もう、これからそんな機会は、なくせばいい。
仁と普通に、楽しく、居られたらいい。
そう決めて、そう過ごす事にすれば、普通に居られるはず。
「肉じゃがだ。 初めて作るじゃん」
「うん。本通りだから、大丈夫なはず」
「味付け、またちゃんと計量したの?」
「……したよ」
答えると、仁はクスクス笑う。
「笑うなよ。正しいやり方だろ」
言うと、仁はまた笑って。
「そうだけど、彰っぽくて」
クスクス笑う仁。
全部準備が終わって、先に食卓に座る。
「仁みたいに大体で、とか、できないからしょうがないじゃん」
「全然。悪いなんて言ってないよ」
笑いながら、正面に座って。
2人で頂きます、と言う。
「ん、めっちゃうまい」
「まあ、そうだよね。本通り」
「ジャガイモ、うまくむけるようになった?」
「皮薄くなってきた」
「はは、そっか」
一番最初にむいた時は、中身が皮と一緒に剥かれて、ずいぶん小さいジャガイモになったっけ……。
「家に居た時は一切料理なんかしなかったから…… オレらが料理してるとか言ったら、母さん、びっくりするだろうな」
仁がそんな風に言って笑う。
確かに。掃除とか洗濯ものをたたむとかは手伝ったけど、料理はほとんど手伝った事がなかったっけ。
――――……懐かしいな……。
「いつか母さんに、オレ達が作った料理食べさせてあげようよ」
そんな風に言う仁に、ふ、と笑って、「いいね」と、頷いた。
(2021/3/28)
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