◇酔い

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 彰のマンションについて、チャイムを鳴らすと。  仁が出てきて、驚いた顔をした。 「――――……片桐さん……」 「……よお、元気か?」 「……彰、酔ってんの?」 「……ああ。とりあえずベッドに運んでくれるか? ちょっと彰支えてて、靴脱がせるから」 「……」  無言のまま、仁が彰を支えてる。 「上がるぞ。水のませて」 「どうぞ」  引きずるみたいに彰をベッドに連れて行った仁が戻ってくる。 「……あんな飲ませないでよ」 「勝手に飲んだんだよ、オレは何回も止めたぞ」 「――――……たくもー……」 「――――……なあ、仁ちょっとだけいいか?」 「ちょっと待って、今、彰見てくるから。水渡してくる」  ペットボトルを持って、部屋に行った仁は、すぐに呆れたように、洋服を持って戻ってきた。スマホをテーブルに置いてる。 「ズボンとか脱いで布団入ってた。もう寝てるし」  はー、とため息をつきながら、そのまま服を置きに行った。  戻ってくると、寛人を見て。 「座りますか?」  テーブルの脇で立ってる寛人にそう言った。 「いい。少し言っておきたいだけ。余計な事かもしれねえから…… 少しだけ、考えてみて」 「――――……何ですか?」 「……彰から好きになってもらわないと、仁からは言わないって話……」 「……はい」 「……直接迫らなくても……好きだって事、分かるように接したら?」 「――――……」 「……彰は、昔のお前が勘違いだったっていうお前の言葉を信じてるし。そんな状態で、彰からお前に行くなんて、絶対無い……とオレは、思う」 「――――……」 「……でも、これは、お前が決める事だからこれ以上は言えないけど。ただ、今の彰は、お前に好かれてるなんてかけらも思ってないから、あの彰が、そのお前に好きだと言うなんて ありえない。……それでもいいって覚悟なら……それはそれでいいけど」  黙って聞いていた仁は、しばらくして、ふ、と笑った。 「――――……片桐さんてさ」 「……ん?」 「オレと彰に、くっついてほしいの?」  くす、と笑って、仁に言われる。 「――――……わかんねえな。 くっついて彰が幸せになるなら、良いと思うけど。 幸せにしねえなら、告白もすんなって、思うし」  言うと、仁は、苦笑い。 「片桐さんて、彰の事、好きだよね……」 「――――……一番大事な奴かもな。……好きで、ずっと居たからな」 「……あんたが、彰とそうなった方が、幸せになりそうだけど」 「……残念だけど、そういう対象で見た事は一回もねえな。……それに、オレに渡す気なんかないだろ」  寛人が言うと、仁は、ぷ、と笑う。 「――――……難しいよ。 ……好きってバレたら避けられそうだし」 「……」 「……それでいて、好きって思ってるかもって、彰に思わせるような態度しろって事でしょ?」 「――――……」 「……すげー難しい事、言ってるんだけど」  はあ、とため息をつきながら、仁は寛人を見る。  ……まあ。そうだろうけど。  そもそもこの恋自体が、難しい事なんだから、仕方ない。 「―――……少し、考えてみる……」 「ああ……けど、彰、この件に関しては、死ぬほど繊細だからな。 押し過ぎたら、即戻れよ。傷つけんなよ」 「……だから、すげえ、難しいって……」  嫌そうに、言う仁。  まあそうだろうけど。 「迷ったら電話してこい。話すうちに考えまとまる事もあるし。  んじゃな。オレは帰る。明日塾、起こしてやって」 「分かってますよ」  玄関に向かう寛人の後をついてきながら、仁がため息。 「ありがとうございました。彰の事」 「――――……おう。出来たら、水飲ませてやって。心配だから」 「了解です。おやすみなさい」 「おう。じゃあな」  ……ほんと、しっかりしてる気がする。  ――――……彰の方が弟みたいに見える時すらあるな……。  考える事拒否って、弱くなった彰と。  きっと死ぬほど考えて、覚悟決めてる仁と。  ……覚悟の強さの違いかな……。    ……つか、やっぱり……余計な事、言ったかな。  ため息をつきつつ。  でもこの程度で、関係がおかしくなって壊れるなら、もう、それまでだったんだろうとも、思うし……。  いい方向に転がってくれるといいけど、と思いつつ。  駅までの道を、歩いた。 (2021/4/5)
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