1501人が本棚に入れています
本棚に追加
【side 彰】
……あれ? なんか、仁、普通……?
「ごめん、遅くなって。食べててくれて良かったのに」
剣道から帰ってきて、シャワーを浴びて出てきた仁は、普通に笑顔でそう言った。
「もっと遅くなるなら先に食べようかと思った、けど……」
「ありがと。食べよ。準備手伝う」
「……うん」
――――……なんか。今日の塾のバイト中も、全然目を合わせてくれないし。余計な事話さないし……だったのに。
「――――……仁?」
「ん?」
「……」
なんて言おう。
そう思って一瞬言葉に詰まってたら、皿を出してた仁が、一度置いて、彰を見つめた。
「……ごめん、彰」
「……」
「―――……態度悪かった、オレ」
「――――……」
「……やな思いしたよね。ごめん」
「……いや…… ていうか…… オレが、何かしたんじゃないの?」
「してないよ」
「でも……」
「……酔っ払いすぎてて……ちょっとむかついたけど」
――――……。
それを言われたら、何も言えない、のだけど。
「……ほんとに、それ?」
「そうだよ」
本当なのか分からないけど、仁は、まっすぐ、彰を見つめてくる。
「……こんな態度良くないと思って。……反省してるから、許して」
隣で、少し困ったように笑う、仁。
「……オレこそ、……なんかごめん」
彰がそう言うと、仁は、じっと彰を見つめてから、首を横に振った。
「彰は謝んなくていいよ。ほんとごめんね」
言って、仁がまた皿を持って、テーブル置きに行った。
「……この話、これで終わりでいい?」
「――――……オレは、いいけど……」
仁、ほんとにそれで、ここ2日間ずっとあんなだったの?
そりゃ迷惑かけたかもしれないけど……。
「仁、いいの?……ほんとにそれだけ?」
「……彰、飲みすぎ禁止な?」
「――――……ん、分かった」
――――……ほんとにそれだけだったかよく分からないけど。
もう、それ以上は言わないんだろうと思って、そこで諦めた。
ご飯を一緒に食べ始めると、仁が今日の道場の話をし始めた。
「今日少し早く行ったから、小学生の子達が居てさ。すげえ可愛かったよ」
「そうなんだ。こないだの子、居た?」
「居た居た。 めっちゃ懐かれた」
そっか、と笑う。
「可愛かったよね、あの子」
「うん。可愛い。一生懸命で。結構筋良いと思う」
「そうなんだ」
普通の、笑顔。
楽しそうな、優しい、喋り方。
いつも通りの仁。
ほっとする。仁の視線が、普通に絡むのが、嬉しいと、感じる。
でも――――……心の端で気になる。
酔っ払いすぎたからって…… あんな怒るかな?
……玄関からベッドに運んだ位で、仁がそんなに怒ると思えないのに。
でも、何をしたか、分からない。
――――……オレあの日……酔っぱらって帰ってきて、寝ちゃっただけ、らしいし。で、起きて会った時には、もう、仁は、変だったし。
……何も、する暇ないと思うのだけど。
でも仁の態度は、それだけなんて、思えないのに。
納得いかないけど。
仁は、もう何も話さないと決めたみたいだし。
これで――――……いいのかな……。
聞きたい事も聞けず。
言いたい事も言わずに。
このまま――――……。
楽しい空間だけ守っていければ、いいのかな……。
「彰、オレ明後日はランチからバイト入るからさ。……来る?」
そう聞かれて。
こないだ約束もしてたし、行く、と頷いた。すると仁は、嬉しそうに笑う。
「まだ料理は作ってないけど。ホールに居るから、コーヒーはオレが淹れて持ってく」
笑顔で言う仁に、うん、と笑い返す。
「……仁、あのさ」
「ん?」
「……昨日から変だったのって…… オレが酔っぱらってたから?」
「……そうだよ?」
また話を戻した彰に、静かに笑ったまま、仁は頷いた。
「酔っぱらって……何か、した?」
「何かって?」
「……暴れたとか、なんか……いやな事、言ったとか」
「……してないよ。ごめん、ほんとに大した事じゃなかったんだ。もう気にしないで、彰」
「――――……分かった」
笑顔で言われると。もう、頷くしかできない。
本当なのかも、よく分からない。
ただ頷いて。
たぶん敢えて、楽しそうに話してる仁と、同じように笑顔で話して。
その日は、食べ終わってからもお互い部屋には戻らず、寝るまでずっと、一緒に、過ごした。
(2021/4/10)
最初のコメントを投稿しよう!