with亮也

1/5

1489人が本棚に入れています
本棚に追加
/144ページ

with亮也

 一緒に買い物をして亮也の家に帰り、しばらく色々話して過ごした。  夕方になってきたので、飲む準備に、つまみを作り始める。 「オレ餃子焼くから。彰は、皿とか枝豆とか出しといて」 「うん」  言われるまま手伝う。  動きながら。仁の事を思い出す。  18時まで、か。  ――――……仁、ごはんは食べとくって言ってたけど……。  早く帰ってきてって、言ってたな……。  仁の言った、早くって……何時だろ。  今17時だから……とりあえず、しばらく飲んで――――……。 「彰、枝豆はレンジでいーよ」 「ん、分かった」  冷凍庫から買ってきた枝豆を取り出して、皿に並べてレンジに入れる。 「彰、なんか、ごはんとか麺とか食べたい?」 「今いいや。つまみだげで」 「ん。もうすぐ焼けるから、酒だしといて」 「うん」  冷蔵庫を開けて、アルコールをテーブルに置いた。   一通り準備が終わって、テーブルで向かい合う。 「はい、かんぱーい」 「んー。かんぱい」  グラスを合わせて、少し飲む。  今日は酔わないで帰ろ……。  密かに少しセーブしながら、亮也と飲んでいたら。 「彰、酔わないようにしてる?」 「ん? ……ああ。うん。ちょっと」 「何で?」 「こないだ酔っぱらったって言っただろ?」 「いいじゃん、別に酔っぱらっても。介抱するよ?」  亮也の言葉に少し苦笑して。 「そんな酔っぱらってばっかり居れない。明日塾だし。今日は少し早く帰るから」 「ふーん。…… 弟に、早く帰れって言われた?」 「――――……ん??」  あの会話、聞こえるとこには居なかったと思うんだけど……。  首を傾げて、亮也を見つめると。亮也は意味ありげに、ふ、と笑って。  グラスをテーブルに置いた。 「……なあ、オレさ、会った日からお前の事誘ったじゃん?」 「……うん」 「で、ずーっと誘い続けて、何回目かでOKくれたじゃん?」 「……ん」   「それで何回か関係もってからさ。オレがお前に、付き合ってみようぜって言ったの覚えてる? 付き合おうって言ったの、こないだは2度目じゃん?」 「……覚えてるに決まってるじゃん」  何が言いたいんだろ。  亮也を見つめていると。ふ、と亮也が笑んだ。 「お前女とも関係あったけど、そっちとも付き合わないみたいだったし。付き合おって言ったオレに、そん時、自分がなんて言ったか、覚えてる?」 「――――……」  オレがなんて言ったか……??  ……なんだっけ。 「彰が言ったのはさ…… オレを好きな奴を置いて逃げてきたから、自分だけ誰かと付き合ったりできない、って、そんなような事言ってた」 「……ああ……言ったかも……」  ――――……付き合えないと言っても、納得してくれない亮也に、本当の事を、少しだけ伝えた、のかも。 「セックスはいいのって聞いたら――――……そこまで縛られたくない、って言ってた」 「………言った、かな……よく、覚えてるな……」  亮也は、ぷ、と笑う。 「変な事言うなぁって思ったんだよ。だから覚えてる」 「――――……」 「そんなに後悔する位好きなら、逃げなきゃいいのにって。なんで逃げたか聞いたけど、それは言いたくなさそうだったしさ」 「――――……」 「でもオレお前気に入ってたし。変な事言ってるけど、それも含めて、まあいっかと思って」 「――――……」 「そんな関係が嫌だっていうならやめようって、お前はオレに言ったけど、 オレ、やめるっていうのは選択肢になかったんだよね」 「――――……」 「お前が結局誰のものにもならないなら、とりあえずオレがお前の一番近くに居ればいいやって、思ったんだよな……」 「亮也 ……」  そんな風に、亮也が思っててくれた話、初めて、聞いた。 「……でもオレ、今日分かっちゃった、かも……」 「――――……?」 「逃げてきたの――――……あの、弟なんじゃない?」 「――――……」 「それなら、逃げてきた理由も、さっき、すげえ睨まれた理由も……納得なんだよな」  鋭いのは、知ってるけど――――……。  普通ならありえない、そんなとこに気づくなんて、やっぱりすごいな、なんて。ぼんやり思ってしまう。  否定する気も、もはや起きなかった。 (2021/5/1)
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1489人が本棚に入れています
本棚に追加