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キスマーク
「オレ、そろそろ帰るね」
「ん。あ、片付けいいよ」
「でも少しだけ」
立ち上がって、テーブルの上のごみや、自分のグラスを持って、キッチンに向かう。
「なあ」
一緒に立ち上がって、彰の隣に立った亮也を、ん?と見上げる。
「何?」
「何であいつ、あんなにオレの事嫌がったのかな」
「……うーん…… 亮也がオレに触ってたから……?」
「触ったっけ?」
「顔上げさせる時。ちょうどその後、仁、来たんだよね……」
「――――……じゃあやっぱり彰は、オレがお前の事触ったから怒ったって思ってるって事?」
「……だってそこしか、ないんだもん。 よく分かんないよ。その前に、男友達が来るって言った時は、機嫌良かったのに」
「――――……やきもち?なのかな?」
「……でも、女の子のキスマークに反応しないのに、男が顔触った位でって…… 逆におかしくない? だからやっぱりやきもちとかではないのかも……」
「うーん……なあオレと今居るって、知ってんだよな?」
「え? うん、知ってるよ」
「……ちょっとだけ我慢してて」
「え?――――……え」
手首を取られて、開かれて。
きわどい所に、キスマークを付けられる。
「っ……っ何してんだよっ」
「はは、ごめん、怒んないで。いいじゃん、いまさらオレがつけるキスマーク一個増える位」
「そんな事言ってんじゃなくて、何のつもり――――……」
は、と気付いて、固まる。亮也がニヤ、と笑う。
「弟に見せてみ?」
「……絶対ぇ見せない」
「だってオレと居るの知ってるのに、キスマークつけて帰ってきたらさ。どんな反応するか見たいじゃん?」
「――――……ていうか、キスマークは、もう前に……」
「だから、それは女の子だろ? 今日のは、オレかもって、思う訳じゃん?」
「――――……なんか、悪趣味……っ」
睨むと、亮也は、そう?と笑う。
「だってさ、何かきっかけがないと、動かなそうなんだもん。まんまとひっかかってくれたらいいけどなあ?」
「……絶対見せないから」
「ちえ。つまんない」
「つまんないじゃないっつの! ほんとに……」
そんな攻防を経て、亮也のマンションを後にして。
途中のお店で、美味しそうなプリンを買った。
で、今、自分のマンションの、部屋の前。
ボタンもいっこ上に止めた。ここからなら絶対見えない。
大丈夫。
酒も、飲みすぎてないし、普通。
「――――……」
うん。普通に過ごす。
バイト、忙しそうだったな、とか、話して。
美味しかった、とか、話して。
で、プリンあげて。一緒に食べよ。
それで、シャワー浴びて、今日はもう、酒飲んで眠いからって、布団に入ろう。よし、完璧。
仁と会った後のシミュレーションを終えて。
――――……なにしてんだか、オレ。なんて、そんな風に思いながら、鍵を開けて、中に入った。玄関の電気をつけて、靴を脱いでる所に仁が迎えに出てくる。
「彰お帰り」
「ただいま。 ご飯は? 食べた?」
「ん。さっき食べ終わったよ。今片付けてたとこ」
「そっか」
「彰は? どこで食べたの?」
「オレは――――……友達んちで、軽く食べた」
「飲んでる?」
「うん。少しだけな? ん。これ。プリン」
「……プリン?」
「カフェオレのお礼……オレのもあるけど」
笑いながら言うと、プリンの入った袋を覗いて、仁も笑う。
「ありがと。 一緒に今食べる?」
「うん。食べる。手、洗ってく」
「ん。何か飲む?」
「オレ、水でいいよ」
「了解」
仁がリビングに。オレは、洗面所に入る。
うん。――――……普通、だな。
大丈夫そう。 よかった。
――――…… 何だかな。
……仁の機嫌とか……態度とか。
勝手に、感情揺さぶられて――――……。
普通に過ごせるだけで、ほっとするとか。
馬鹿だな……オレ。
今も好きか、聞いちゃえばって。
――――……亮也てば、簡単に言うけど。
……できるわけない。
キスマーク……見えないよな?
鏡で首元を写す。
今見えない、と思うけど、どこだったけ……。
ぷち、とボタンを外して、ああ、ここか。ここならしめとけば絶対見えないや、と思った瞬間、だった。
「彰、オレ、紅茶入れるけど、飲む?」
急に、仁が顔をのぞかせた。あまりにびっくりして。
びく!と大きく、震えてしまって。咄嗟に、外したボタンをきゅ、と合わせた。
「――――……なに?」
眉を寄せた怪訝そうな顔。少し首を傾げて。
何を思ったのか、仁が、彰の手を掴んだ。
「何隠したの?」
「――――……何でもない、隠したわけじゃ……」
「見せて」
ボタン、合わせてた手を、外されて、開かれる。
しばらく、無言。
「――――……誰の、キスマーク?」
つかなんか――――……もう。
亮也の、バカ……!! オレもバカ!!!開けなきゃよかったのに……!
眩暈が、してきた。
(2021/5/16)
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