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生きることとはつまり、死との相乗りである。
15の周(あまね)がそうまで思い詰めるほど、苛烈を極めた生い立ちが、今また彼を翻弄しようと爪を研いでいた。
ガタリと戸口を鳴らして養父が帰った。賭場にでも行っていたのか、昼間っからヤニと酒臭さにまみれたトンビとパナマ帽を脱ぎ捨てると、周に手招きをしながらいろいろのことを言ってくる。周は聞くふりをしながら、トンビを拾って丁寧に畳み込んだ。背に負ぶる赤子が元気に泣くのでうるさくてかなわないのだ。
「すみません、よく聞こえませんでした。もう一度……」
願い出たところでまた赤子が泣いた。態度ほどは大きくない養父のだみ声は簡単にかき消されてしまうから、養父が癇癪を起こしてまた腕に火鉢の炭でも押し当ててくる前に、赤子の尻を軽く叩いてあやした。
しかし泣き声はますます狂ったように大きくなった。赤子も感じているのだろう。この家で唯一自分を大事に扱ってくれる兄という人間を、明日には失うということを。
東京府本郷区の外れにある名家の長男として、周は生まれた。長男といっても、そのころ本妻を亡くしたばかりの男が生ませたのだから妾の子である。
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