一章

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 目を覚ましたのは、病院だった。 側には海音が居た。 嬉しそうな声が聴こる。  「あ、やっと目覚めたか。   バカ葵、遅いぞ目覚ますの。   どれだけ、心配したか…」とまだ目覚めた  ばかりのわたしにクドクドとお説教をする。 それがいつもの海音だから、特段違和感は感じない。  あ、そうだ帆真礼さん心配してたぞ。  確か、今トイレ行ってる。  すぐ帰ってくると思うから、元気な姿見せて  やれよ。  わたしはそれに曖昧に返事を返す。 気乗りがしなかったからだ。 というか、そもそも聞いていない。 聞こえていないからだ。 顔を上げると、病院特有の消毒液の匂い。 わたしはこの匂いが嫌いではない。 体が弱く。  生まれてから暫く病院にいたからだろう。 度々入院していた。 優海…一体何者だろうか…? どこかで会った気がする。 だが、それは遠い遥か彼方の記憶に封印されていた。 そこを、こじ開けてみれば何か分かるのだろうか。 何か、知ってはいけない匂いがする。 でも、好奇心には勝てなかった。 がむしゃらでもなんでも良い。 その子のことは、わたしが調べなくてはいけない気がした。  手掛かりは、海音と同じ学校、同じクラス。 それから血液型はA型ということだけだった。 それだけでも、わたしの頭の中には、イメージが湧いてくる。  頭が覚えているのだろう。 きっとそれほどまでに、目立つ人だったのだ。 いつか、彼女に会う日まで待たねばならない。 そのいつかとは、明日かもしれない。 それとも今日かもしれない。 不安だけど、わたしがやらないと誰がやるのだ。 居ないだろうやれる人なんて…。 だから、わたしがやるのだ。 そうやってわたしは一歩震える足を前に出したのだった。
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