痕跡

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 「とりあえず、崖から離れない?」 あ、そうだね。 てか、ついてこいよ? だから、どこに? 漫才みたいに繰り広げているが、これまでさっきまで死のうとした少女と、それを止めようとした少年であった。  どこに?というわたしをやっぱり無視して先に進んで行く。 ある程度進んだところでついて来てないのに気付いたのだろうか、足を止め、チラリとわたしを伺う。  そして彼は口を開く。 満遍の笑顔で…、 「良いところ。」 その笑顔にわたしは心打たれるのは早かった。 この上ないくらい、愛おしい笑顔。 それは、彼のことだと思う。 心臓が痒い。 とても歯痒い。 その時だった、 あ、そうえば君の名前聞いたなかったね。 なんて名前? 彼は唐突だ。 タイミングもいつもベストである。 「…葵。」 良い名前だね。 彼は爽やかに微笑む。 ほんとにキザな男である。 そんな彼は、懐かしい匂いがした。 何故だろう。 どこかで会っていただろうか。 会っていたら、思い出さなくてはならない。 それはきっとわたしに課せられた使命だろうから。 わたしはまだ、きっと生きたい。 それは、心の奥底に込めていたメッセージだったりしないだろうか。 とりあえず、彼について行こうそう決めたのだった。 生きるためには、わたしには彼が必要だと。 心のどこかで気づいていたのだから。 彼とわたしはきっとコンパスのようなものだ。
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