痕跡

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 彼が連れてきてくれた場所は、事務所っぽいどこだった。 「ここは?」 取り敢えず、これ着ろよ。 わたしの質問を華麗に無視する。 何か言いたくない事でもあるのだろうか。 これ着ろよと差し出してくれたのは、 彼のパーカーだった。 わたしが着たら、かなり大きい。 ほんのり甘い香りがした。 それは、彼の香りだろう。 とても落ち着く良い香り。  彼はまた、笑う。 俺も提案したは良いけど、ほんとの親じゃねーんだよ。 血の繋がりないの。 それでもちゃんと愛されて育ってるよ。 わたしはふと、思う。  彼は相当な不思議な人、若しくはかなりの変人だ。 だって、自分で愛されてるって言うだろうか。 きっと言わないだろう。  「だから、大丈夫! 葵も、良いお父さんかお母さん出来るよ。   探そう。   てか、葵って顔は可愛らしいのに、ガサつ   っぽいよな?」 いきなり呼び捨てしてくる。 ちょ、いきなり呼び捨てしてんじゃないわよ。 それにガサツって失礼にも程がある。 海人はやっぱり変人だ。 あり得ない。 わたしは顔を真っ赤にして頬を膨らませながら、意味もなく建物を一周する。  奥の方から声がした。 「海ちゃん、お客さんかい?」 若い男の人である。 眼鏡をかけてるベビーフェイスといった感じだ。  「あ、父さん、今日海で拾った〜。   俺の友達ーーー。」 父さんと言われたベビーフェイスさんは、ちらりとわたしを見る。 すると、淡々と自己紹介を始めた。 恐らくこの人は理系だろう。  「えーと、海音(あまね)の父親の海李です 海李と仲良くしてやってくれ。   んで、君も親探しか?」てな感じで、子がアレなら親もという感じで、勝手に話を進めていく。 てか、勝手に脳内で海人呼びしてたけど、海の漢字名前に入ってたんだと驚きが勝る。 「父さん、その通りだよ。  この子、親に愛されてなくてさ。  身寄りがないんだ。  だから、誰か紹介してやってくれよ。  良い人いたら。  あ、ちなみに名前は葵ちゃんね。」
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