痕跡

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 「葵、じゃあ誕生日教えてもらうかな?」 やっぱり強引だ。 二人して、しかも二人とも呼び捨てである。 それでも、わたしは答えた。  「7月」 すぐさま日付けはと聞かれる。 「7月7日です。」 年は? 10歳です。 「うん、そうだろうと思った。 見るからに小学生っぽいもん。」 わたしは失礼なと思う。 その不機嫌な顔を見逃す二人ではなかった。 すかさず、ほらほらそういうところと、痛いところを突いてくる。 まあ、見た目的に手先不器用っぽいから、器用な人を親にした方が良いかもな。 それでいて、人間関係も恐らく不器用だから。 人間関係は、不器用同士が良いだろうから。 アイツしか居ない。 「アイツ?」と思いながら海音を見ると、海音は察しているような顔をしていた。 何れわかるよと…。 しかも、済まし顔。 そして、海李さんを見直すと、誰かに電話を掛けている。 随分と短い電話だ。 そして、にこやかな表情でお楽しみと言いながら、わたしの頭を撫でる。 全く親子揃ってデリカシーのない。  それから、1時間くらい経った頃だろうか、 一人の綺麗な顔の男性が近付いてくる。 そして、驚くべきことを口にしたのだ。  「君か?葵って言う俺の娘になるやつは?   俺の娘ならば、歌上手くないとダメだ」 いきなり何言ってんだこの人は… きっと、そんな顔をしていたのだろう。 綺麗な顔のお父さんになるらしい人は、咳払いをし、自己紹介を始めたのだった。  「俺の名は、帆真礼(ほまれ)、   そこに居る海李と同い年だ。   さっき言った通り俺がお前を引き取る。   今まで辛かったな。」 わたしは、驚きすぎて気を失った。  
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