痕跡

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 それは温かく優しい味がした。 とても愛されているようなそんな感じ。 帆真礼さんはそっとわたしの顔を見ていた。 何か言いたそうな顔だ。 「どうしたの?なんか付いてる?」 「上手いか?」 「うん、美味しいけど、」 けど? 「 何で…何でわたしに優しくしてくれるの?    わたし、何も返せない。  だから、アレでしょ無銭飲食でしょ?」  一瞬空気は静まり返った。 だけど、すぐさま帆真礼さんは豪快に笑い飛ばす。 「良いんだよ。  俺とお前は簡単に言えば、契約みたいなもの  かと言って、事務的じゃない。  ちゃんとやるって決めたからには、愛す。」   え?  「だから、お前は何も返さなくて良い。   むしろ、お金払うな。   おかしいでしょと思うかもしれないが、   俺はお前の親となり、お前は子となる。   それが、俺の使命だからだ。」 ん?   「マッチングしたからには、手は抜かない    ぞ。 とりあえず、病院行くぞ、来い。」 え、ヤダ病院嫌い   「病院好きな人は、居ないぞ。    そうだ!行ったらご褒美やる。    だから、来い。」 「ホマ、相変わらず強引だな。      彼女出来たら引かれるぞ。」 「お前もな。    てか、今は子育てに集中、彼女作ってる    暇もない。」 「良い女避けが出来て良かったな。」 こうして、わたしはご褒美に苺ミルクを買ってもらい、啜っている。 甘くて美味しい苺ミルクは、きっと天才が作り出したんだろう。 子どもの味覚にあっている気がする。 帆真礼パパは、苺ミルクはお子ちゃまが飲むものと断言していたが、恐らく好きなのだろうな。  海音はというと、相変わらずいきなり遊びに誘いにきていた。 その誘いも、海に行くぞ。 魚釣りに行くぞ。 映画行くぞ。 様々だった。 でも、一番落ち着くのが、出会った海だった。 静かな、潮風に髪をなびかせながら、波音を聞き入りながら、おしゃべりをする。 でも、少し冷えて翌日には必ず風邪を引き、お互いの親に禁止されるのだ。 そんな、日常の1ページ 良い思い出である。  
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