仕事

1/1

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

仕事

ジジイの作る食事は なかなか美味かった 俺の脱ぎ捨てた服や靴下や下着を 丁寧に洗濯してくれたし  シャツにはアイロンまで ビシッとかけてくれた 「俺  こっちで 仕事探すわ」 ジジイが ずーっと家にいるので そんな気になった ネットで検索し  大型ホームセンターでバイトを始めた 俺の仕事は 冬の間は外に展示してある 除雪用品の品出しや整理だった 雪かきする道具 ママさんダンプ※1 塩化カルシウム 雪用の箒など 毎日 相当数の商品が動くため かなりの労力だった ずっと外作業なので寒いだろうと 予想していたのだが 休む暇がなく 汗をかくほどだった 初めは時給950円だったが 1ヶ月の試用期間が過ぎ 2ヶ月目からは時給1200円になった 19時から22時までは 時給1500円だ 3ヵ月真面目に勤めたら 正社員になる道が開けるらしい ある夜 22時まで仕事して 家に帰り 夕食をとりながら そんな話をしていると ジジイは こう言った 「正社員になったら 給料は安定するかもしれないが 残業が増えたりして身体に無理かかるんじゃないのか?」 「あっはっはっは 何 そんな心配してるのさ? 別にどうだっていいだろう? 俺がどんな生き方しようが じいちゃんに何の関係もないだろ? ああ そうだ そのうち生活費 渡すよ」 俺は 深く考えず そう言った すると ジジイは 悲しそうな顔をして こう言ったんだ 「克彦 ワシはなぁ おまえに幸せになってもらいたいんだ ワシが心配なのは おまえが本当に その仕事を続けることで 幸せになれるのかどうか ということじゃ」 「幸せって言われても・・・じいちゃんは どうなのさ? じいちゃんは 今の生活を続けることで 幸せになれるという確信でもあるのか?」 「あたりまえじゃ ワシは そのために頑張っているんだ 克彦が元気に働き幸せになるために こうして この家を守って来たし これからも頑張るつもりでおるんじゃ」 「はああぁ? 何で 俺のためにそんなことしてるの? もしかして母さんが生きてる頃には 母さんのために家事手伝いしてたのか?」 「母さんは 自分で家事ができる人だったから ワシはおとなしく屋根裏に潜んでおった 母さんは何でもテキパキ片付けるし 畑で野菜も作ってたし ワシが出る幕はなかったんじゃ しかも母さんは 父さんの年金 結構もらってたから金にも困ってなかったしなぁ」 「すると何かい? 俺は 家事はできない 金はない とても一人では放置しておけないと同情して 俺の苦手なことをするために じいちゃんは頑張ってると そういう話なのか?」 「ふ~む まあ そう思われても仕方がないな 実際は そういう訳でもないんだがのぅ・・・」 「何だよ じゃあ 実際は どういう訳なのさ?」 「それは言えない 貧乏神だからな これでも神の端くれ どんなに愛する人間にも すべてを語る訳にはいかないんじゃ」 「どんなに愛する人間にも? じいちゃんは 俺を愛してるのか?」 「当たり前さ ワシが愛する人間は 今は おまえ一人だけだ」 「まいったな こりゃ! 貧乏神に愛されるとは!」 「もう一度 言うが 金のために働き過ぎるなよ 無理して身体を壊したら 何にもならない 人間 健康第一だ 別に遅くまで残業して金を稼がなくても普通に生活していけるなら それが一番だぞ」 「なるほどな さすがは貧乏神だ 言ってることに筋が通っている」 「だろ? そう思うだろ?」 「筋は通っているけど それが正しいとは言ってない 俺は 車もパソコンも欲しい 一眼レフのカメラや天体望遠鏡も欲しい その前に 可愛いカノジョもな いろいろ欲しいものがあって そのために働いて 自分の欲望を満たし夢を叶えることが 幸せになることだと思う 俺が幸せになることを祈って じいちゃんが頑張ってくれてるなら 俺の その気持ちを応援してくれよ」 「う~む 難しいのぅ まあ 今夜はもう遅い 明日も朝から仕事だろう? 風呂に入って早く寝ないとな」 ジジイは 俺の どんな幸せを願っているのだ ※1 ママさんダンプとは ママさんの力でも一度に 大量の雪を積んで運ぶことが できるよう工夫された形の 除雪用具です! ネットで検索すると 商品を見ることが可能
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加