とんとん拍子

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とんとん拍子

仕事は9時からだったが 俺は毎日8時半には出勤して 誰より早くタイムカードを打刻した 開店は10時だが その前に 店の周辺や駐車場を掃除したり 展示する商品を並べ 在庫を確認し  必要に応じて発注をかける等 積極的に仕事しようと思えば いくらでも仕事があった そもそも じいちゃんは 早起きで 朝7時には朝食の準備ができていた ゆっくり朝食をとり  食後のコーヒーを飲み 新聞を読んでも 8時前だ そんな訳で 俺は  徒歩20分程度の職場まで  食後の運動を兼ねて 徒歩で通勤 誰よりも早く着いて 店舗の周辺を掃除するという 優等生的な勤務態度に 必然的になってしまったのだ そんな俺の勤務態度は 店長に 高く評価され 三か月後に 正社員として採用されたばかりか 半年後には 施設管理部長という管理職に 抜擢された そんな矢先 フォークリフトの運転をしていた 高齢の男性職員が ぎっくり腰になり 急遽 退職することになった 店長は困って 俺にすがりついた  会社で経費を払うから 大型特殊免許と ついでに大型自動車免許 フォークリフトの免許を 取得してくれと そうした免許を持っていれば 仮に この店を辞めても 安定した収入を得られるから と 熱心に勧められた 俺は むしろラッキーと思い それらの免許を取得し 真面目に 一生懸命に 働いた だが それらの免許を取得したため 冬場は 雪が降る度に 店舗周辺の除雪排雪作業に追われた 朝8時から夜10時まで働く以外に 早朝から 除雪作業しなければ 開店までに駐車場を整備できない そんな日も 多々あった 基本 月曜と水曜は休み なのだが フォークリフトの作業が必要になると 俺は その時間だけでも 出勤せざるを得なかった じいちゃんが心配していた通り 経済的にはゆとりができたが 車を買っても 遊ぶ暇などなく 休みの日は 一日中でも 眠っていたかった もう 一眼レフカメラも 天体望遠鏡も 欲しくなかった 欲しいのは のんびりできる 時間だけ そんな俺が 管理職になって 1年が過ぎた頃 夜 すべての従業員が帰り 俺より3歳年上の 和田副店長と二人で 店舗の最終点検をしている時 和田副店長が 唐突に こう言った 「実は いつ告白しようか迷っていたんだけど 僕は来月いっぱいで ここを辞めるんだ 旭川に新規開店する〇△商事のホームセンターの店長として引き抜かれた 給料は今の2倍 完全週休2日 住宅も用意されて 家族はもう今月末には先に向こうに引っ越すことになってるんだ 僕が抜けると君に一気に負担がかかると思って なかなか言い出せずにいたんだけど 今 伝えようとしてることは僕のことだけじゃないんだ 実は 昨日 その新しい会社の東京の本部から連絡があって できれば優秀な社員をもう数人確保したいと言うんだ チラッと君のことを話したらさ もう ぜひ 君にも来てもらえないだろうか 聞いてみてくれないか というんだ 給料は最低でも今までの2倍は保障すると言ってる どうだろう? チャンスだと思わないか?」 俺は 正直 迷った 「家族に相談してみる」 と答えた 「君 家族いるの? 独身じゃなかった?」 「独身だけど じいさんがいるんだ」 「それは知らなかった そうか まあ 相談してくれたまえ 2~3日のうちに返事くれよ 一応 本社に返事しなきゃならないから」
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