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「私は深い森の中を歩いていました。木々が日光を遮っていたのか、それとも夜になっていたのか辺りは暗くなっていました。突然雨が降ってきます。私は、このままでは風邪をひいてしまうと思い、足早に雨を凌げる場所を探しました。すると、前方地面に足跡を見つけたのです」
「足跡」
「そうです」と言いながら、中年の男は二人の足元に目を向ける。
「しかし、それはなんと言いますか、不思議な足跡でした。我々が履いているこの靴のようでもない、かと言って獣のものでもない。やはり、どちらかと言えば造られた履物に近い」
「それは本当に足跡なのか」
「ええ。決まった感覚で刻まれているそれは、紛れもなく『足跡』と呼べるものでした。そして、それはぬかるんだ地面にはっきりと浮かび、真っ直ぐどこかへ向かっているように続いていました」
男は聞きながら、見たこともない足跡が続くぬかるみを想像する。何かが頭の中で一瞬よぎった。が、それは掴めないまますぐに消えてしまう。
「私はその足跡を辿ることにしました。この足跡の先には、もしかしたら何か雨が凌げる場所があるのではないかと考えたからです。そして、それは正しかった」
そこで区切ると、彼は男の目を見て言った。
「足跡の先には、家がありました」
「家……?森の中に?」
「そうです。森の中に、です」
一体どんな家が森の中に?と男は訝しがる。
「そうですね。まるで童話に出てきそうな、そんな家でした。おどろおどろしい方ではなく、むしろ可愛げのあるこじんまりとした」
「むしろ不気味だ」
「足跡は家のドアの前で消えています。どうやら中へ入ったことがわかりましたので、私は雨宿りをさせてもらおうと、ドアをノックしました」
待ってくれ、と男は止める。
「あんた、得体の知れない足跡の主に、雨宿りを頼んだのか」
「そうですね。今思うと不思議です。その時の私はまるで警戒をしていませんでした。いえ、と言うよりも……」
「なんだ?」
その先を待ち切れずに男が問う。
「なんだか導かれたようにも思えます」
「足跡に……?」
「足跡に、です」
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