チーズと足跡

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 「なぜ、」  「こんなところ……?」  「ええ、だって、ここ崖ですよ?」  男は彼の視線につられるように自分の足元を見ると、そこは切り立った崖の端だった。一歩でもそちらに行けば、遥か下へと真っ逆さまに落ちて行ってしまうギリギリの場所。男は自分がそこに立っていることに、初めて気づいた。  『ひゅう』という音を立てて、風が二人を過ぎていく。  「……え?」  「どこにでもいる普通の男が、こんなところにいる理由は何なのですか?」  男は何も答えられずに、ただ茫然と立ち尽くした。  私は、私は何者だ?  そう言えば、何も思い出せない。  何故こんなところにいる?  体が震えてくる。恐ろしい。何が?だめだ。まさか私も記憶が――?  いや、待て。何か思い出せそうだ。  そうだ。私は初めからここに来たくて来たわけではない。  よかった。覚えていることがあった。  そうだった。私は、あの辿、それで――
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