魔女とボクの思い出

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魔女とボクの思い出

僕の爺さんは話した。 人生で一番愛した彼女のことを、彼女から目を逸らした日のことを、次の日逢いに行くと彼女の姿はなかったことを、昨日のことのように。 彼女とは、薬草取りに入った森で、迷ったのちに出た野原で出逢った。 この森は、魔女が住む森と呼ばれており、入った者は魔女を守る人狼に追いかけられたり、コンパスが狂い、出られなくなったり、出られた後も三日三晩原因不明の高熱にうなされると良くないことが起こると言われており、入ることを推奨されていない森であった。 魔女の呪いだと言われているこれらは、きちんと科学的に証明出来る事象であり、魔女の存在はもちろん、呪いなど馬鹿らしいと得意げに話していた上級生の言葉を思い出して、ボクは自分を奮い立たせた。 震える足を叱咤し、森へ進むもボクは直ぐに迷ってしまった。 コンパスは、クルクルと役割を果たさず、何処からか獣の鳴き声も聴こえる。今すぐに声を上げて走り出したい気持ちを、ここに入ることとなった出来事を思い出し堪える。 三つ下の妹の学校で流行っているという肝試し。魔女の森に入り、冷え性に効く、ぎざぎざでうぶ毛の生えた薬草を取ってくるという。その薬草は、隣町でも手に入れられる物で、希少性は低い。わざわざ森に入らなくても手に入れられると指摘すると、妹はとびっきり意地悪な顔で「お兄ちゃん怖いんでしょう」と煽ったのだ。 兄としての威厳は既にないが、ここで逃げ出すわけには行けない。既に帰り方のわからない不安を誤魔化し、進んだ。 誤魔化していても、薄暗い森に風の音、肌に触れる何もかもが怖かった。夢中で進んで、突っ切った先には、野原があって、その先には空だけがあった。やっと明るい場所に出られた安心感から、ボクは座り込んでしまった。 そして、戻ることもできず、途方にくれるボクの目の前に彼女が現れた。 「ねぇ、お菓子でもいかが?」 彼女はボクに、手作りのお菓子を振る舞い、ボクの事を知りたがった。森に入った理由や学校のこと、家族のことなど次々に質問を浴びせる。 彼女との時間は楽しく、迷ったことなど忘れ、気づけば辺りは肌寒さを感じる時間となっていた。 彼女はボクに帰り道を示し、薬草をくれた。彼女は、この森は危険だからもう入ってはいけないと話し、今日のことは二人だけの秘密だと、とびっきり悪く、魅力的な笑顔で話した。 森へ入る前、ボクはボクを見守る彼女を振り返り、明日も会えないかなと大きい声で尋ねた。彼女は答える代わりに、大きく手を振った。何処からか強い風が吹き、体がよろけた。転けないように気をつけ体を前に戻し、風に押されるままに進んでいたらボクは森の出口に立っていた。
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