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魔女を訪ねる
ある魔女は言いました、人間は嫌いだと。
そんなことを言う割に、訪ねてきた人間を部屋に上げて、お茶を出した。
僕は通された部屋を見渡す。手作りであろう木製の机や椅子、ローチェストなどの家具。不揃いで不恰好だけど、パステルの優しい色合いが、部屋の印象を温かくしている。ローチェストの上には、若い男と彼女が腕を組み微笑み合う写真が飾られていた。
写真の彼女は今と何ら変わらない見た目なのに、今の彼女からは想像できないような暖かな笑顔で、男は彼女の笑みに照れながらも、しっかりと彼女を受け止めていて、二人が愛し合っていることは一目瞭然だった。
僕は写真の男を知っている。
髪は黒く、多いが、僕と同じく癖毛で、頼りない印象を受けがちな目元は、優しく僕が好きだったあの笑顔の面影を残していた。
ここが、僕のお爺さんが話した魔女の家で間違いないだろう。
魔女が、お茶菓子を用意すると消えた部屋の方からは、いい匂いがしており、カタカタと皿を運ぶ音が聴こえてきた。
昨日、僕のお爺さんは、僕に昔話をして、この世を去った。
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