榛名の嘘

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「冷たそうだな」 「あれ、前野(まえの)君。もう本当に、冷たいよ」  榛名は俺を見上げると、寒そうな顔で訴えてくる。手には貼らないカイロが1つ握られており、俺と話したタイミングで、ポケットに入れて温めておいたもう1つのカイロを出し、手に握っていたのと交換する。だが、ホカホカのそれを握っていても、冷たそうだ。榛名の肌は雪のように白いから、それが尚更寒さを引き出している。  学校が終わり、俺は一度帰宅をしようとするも、教室に忘れ物をしたことに気づき、鳥に戻ると、いつもの席にぽつんと榛名が座っていた。榛名は、部活には入っていないから、学校が終われば放課後はすぐに帰るし、残ったとしても委員会の時ぐらい。だが今日は委員会があるという話は聞いたことが無い。榛名も忘れ物をしたのだろうか。 「ていうか、帰ったんじゃなかったの?」 「忘れ物。榛名は?」 「私はこれ以上寒くなりたくなくて、教室を出れないでいる」  俺は窓の外を見ると、外は雪が降っていて、明らかに体を冷たくしそうだ。この教室は暖房が入っていて暖かいし、出たくなくなるのも分かる。  俺は雪を見て声を出して笑うと、自分の席に座る。 「もう、病院行けば?」 「いや、そこまでのものじゃないから」 「そう?」 「うん」  榛名がこくりと頷くと、俺はそういうものなのか、と心の中で一応納得する。
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