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石居 麗助(いしい れいすけ) 田嵐 永遠(たあらし とわ) 「今日も、来たの」 「来るよ。俺は石居の担任だから」 田嵐永遠のクラスには、不登校の生徒がいる。名前は石居ユミト。病んでいるとか、何か悩みがあるとか、いじめられているとか、そんな話は聞いたことがない。友達も多い、気さくで話しやすいし、勉強もそこそこ。家族とも仲が良くて、欲望にも従順。単なる男子高校生だ。では何故学校に行かないのか。訊けば、「叔父さんに会いたくない」と言われた。 石居麗助。ユミトの叔父である。高校教師。田嵐とは、受け持っているクラスが隣同士だ。ユミトは麗助の兄の子供。正直、どうして嫌われているのかが分からない。小さい頃からずっと可愛がってきたつもりだ。生まれつき無表情のこの顔をなんとか動かして、仲良くしてきたつもりだ。暗い低音しか出ないこの喉を酷使して、明るい楽しい時間を過ごしてきたはずだ。そんな甥にどうして嫌われているのか、全く想像が付かなかった。担任には、えらく懐いているらしいのに。 「あら、今日も石居くんの家にですか?」 「まぁねぇ、様子だけでも見ておこうかと。彼、家で結構勉強してるみたいですし、質問を受けたりもするもんでね」 「大変ですねぇ田嵐先生も。ご苦労様です」 大変なわけあるか。田嵐永遠。この男、万年発情期なのである。彼のいろいろな噂は絶えない。生徒を食い物にしている、とか。男ばかり狙う、とか。それらがほとんど事実なのだから、この男そうとうだ。つまり当然ユミトも、食われた生徒の一人であった。 「は、は、せんせ、気持ちぃ」 「ん。おれも」 そして田嵐は受け。言葉通り、食う方なのだ。 今日だって、いつもと同じ。石居ユミトは担任教師に食われていた。 「ユミ、お前鍵開けっぱは流石に不用心…」 叔父さん、降臨。 「わ、わわっ!れー兄なんでいんの?!」 「ごめんな、ユミ。そういうかっこしてっと襲っちまいそうだから先に服着てくれ」 「あ、いやこれは違っ」 「そんでさ。こんなところで何してんすか。田嵐先生…通報しますよ」 様子見ついでに勉強を教えていた。その途中、お茶をこぼしてしまったから着替えていた。田嵐は麗助にザッとそんな言い訳をした。 「信じろと?」 「信じるでしょ?甥っ子ちゃんが言ってるんですから」 「あのなぁ、あんたの噂は聞いてますよ。常々。思想や趣味の違い。いろいろある。別にあんたを責める気はさらさら無いんですよ。でもコイツ俺の可愛い甥だからさ、軽率に触れられては困る。悪いけど控えていただきたい」 「同意だよ、れー兄!俺がヤりたくてヤってんのお前には関係無いだろ!俺れー兄のそーゆーとこが嫌いなんだ。過保護で俺至上主義なとこが!」 正直、ショックだった。立ち直れないほどには。大雑把な兄に代わり、パパになったような気で育てて来たのだ。反抗期、だとしても。思春期、だとしても。担任教師と仲良くイチャついた挙句関係無いは無いだろう。クールでかっこいい、なんて言われなれている麗助には、初めての酷い仕打ちだ。 「今日もですか?お忙しいですね」 「まあね。彼には少しでも早く学校に来れるようになって欲しいですから」 「田嵐先生、連日ですか。お元気ですね」 廊下で田嵐に声をかける。きつく睨みながらだ。 「まあまあ、フラれたからってそんな不貞腐れないでくださいよ」 「あんた、遊びでしょ」 「どうですかね〜」 「生徒に手ぇ出すなんて…そんなに欲求不満ですか」 「うるせーな〜しつこいですよ。石居先生」 「溜まってるってんなら、俺が相手してやりましょうか」 「へぁ?」 「返事は?田嵐先生。俺と、遊ぶ気は?」 「代わりに甥ちゃんのところには行くなって?」 「可愛いでしょ、ユミ。田嵐先生、俺がこんな近くに居ながら何故今までアイツに手を出せなかったか教えてあげましょうか。うちの兄貴は恐いからです」 「そーんな護りたいの、甥ちゃんのこと」 「これは忠告です。あんたへの。俺で良いでしょって言ってんですよ。仕事終わり。明日は休み。経験豊富。成人済み。ホテル代は割り勘。オマケに恐い兄貴に怯えることもない。ほら優良物件」 「石居先生がそこまでして護りたい子、俄然興味が湧いて来ます。残念ながら俺は…」 「分かりませんか?あんたとヤりたいって、誘ったんすけど」 退屈させたら承知しませんよ。 心配いりませんね。 僅か数分前のやりとりだ。あのままホテルになだれ込んで、挑発し合って、シャワーも浴びないまま… 「うぁ、あぁっ、も、いい、いいですよぉっ、はや、はやく、も、入れっ」 「実際ほぐさなくてもガバガバなんすけどねー。焦らされるの好きなんですか?さっきから指だけで二回イってますけど」 「いやっ、や、入れ、おねがっ、あぁぁぁ」 「イくんですか?また?」 この、男。上手い。経験豊富と、たしかにそう言っていた。でもここまでのテクニシャンだとは思わないではないか。 ユミトの比じゃない。 当然彼は童貞だったしウブな感じがそそられた。生徒達も同様。自分を求めて余裕無くして、自分でヨガっているのがなんとも言えない優越感みたいなのに浸れた。麗助は違う。さんざん焦らされて、意地悪を言われて、やっと入ってきた時に感じたこの、充足感。物理的にもこれまでのナンバーワン大きいがそういうことではなく、上手く言い表せない満たされているという心地が、善い。 「ん!んんんんっ」 「声、出した方が楽ですよ。田嵐先生」 「うあああああっ!んんなぁぁぁ」 弱いところを、ガツガツ強く攻められる。やばい、これは良くない。このまま続けられたら、呆気なくドライでイきそうだ。やばい。やばい。頼むから早く果ててくれ。こっちはもう何度もイっている。何も考えれなくなるほど、頭の中がドロドロだ。 「も、むりっ、むりっ」 「大丈夫大丈夫。田嵐先生ならまだイけるって」 「いやあ、むり、いきたく、なっ、あああっ」 「は、しょうがねーな。じゃあイかないようにしときまーす」 ギュ、と。根本を掴まれた。久々の前への刺激に身体が震えるも、出ない。そのまま奥の奥までこじ開けられて、そんな、一回で到達するようなもんじゃ、ないところまで。 「ああああっ、そこ、そこ、やぁぁぁぁ、お、く、だめっ」 「ねだってるようにしか、聞こえないっての」 「んあああああっ、イく、イくからあ、手ぇ、は、なしてっ、も、やぁぁっ、イきたっ、ああああ、イかせ、ぁあ」 「ふ、は、イきてーなら、イきゃ、いーんすよ。俺も、もすぐなんでっ」 「むりっ、できなっ、や、あ、クるっ、クりゅううっ、ああぁっ、たすけ」 真っ白。真っ白で、チカチカして、なんだこれは。気持ちが善い。善すぎる。おかしくなる。違う、おかしくなってしまった。おかしくされてしまった。 「ドライ一回でトんじまった」 思わずこぼれた感想は、その時の率直な感想だった。女の子相手にはできないぐらい、多少ザツにしてしまったことは認めよう。つい楽しくなって、焦らしすぎたことも。ただ早いよと、麗助は思ったのだ。 朝。起きたのは9時過ぎだった。今日が休みで良かったと、心から思う。いつもは行為後に寝るなんて、いや、行為中にトぶなんてあり得ないのだ。腰は痛かったが、ぐっすり寝た分身体は元気だった。予想はしていたが、隣に麗助はいない。今になって、冷静になって考えれば、麗助は単純に甥に手を出されないように田嵐の欲を自分に向けさせただけだ。そこに他の理由などあるはずがない。テーブルには、ホテル代が全額無造作に置いてあった。 「石居先生。この前はありがとうございました」 「何がですか?」 「ホテル代。全額出してもらっちゃって」 「ああ、返してくださいよ半分。起きなかったからとりあえず置いときましたけど、割り勘ってことだったでしょ」 「嫌です。その代わり、次は俺が全部出します」 「次があると?」 「無い、の?」 「…分かるでしょ。大人の関係ってやつ」 「え〜、お願いしますよ〜。もう甥ちゃんには手ぇ出さないんで。俺石居先生にハマっちゃいました」 「…俺セフレはもういっぱい居るんすけどね」 「じゃあ恋人で」 「無ぇな」 「どうしても、無理ですか?」 「トぶの早すぎなんですよ、田嵐先生。抱かれ慣れてんじゃないんすか」 煽るように笑顔を向けられて、さすがにムッとする。 「…俺の相手はねぇ、大抵ハツモノなんですよ俺で筆下ろしすんの。俺がリードできんの!」 「へえ…じゃあ仕方ないんで、次はもっと長く意識保ってられるよう特訓しますか」 「へぁ、それって、」 「あと。今更ですけどそういう話は学校ではやめてください」 「えー」 「俺はあんたみたいな噂されんの嫌なんで」 これまで関係を持った生徒達ともう一度会った。最後の逢瀬のような感覚で。上手くなっている子もたくさんいたが、どうしても麗助には及ばない。もっと満たされたいと思ってしまう。正直に言おう。ドライなんて初めてだったのだ。あんなにおかしくなるのも、初めてだったのだ。
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