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プロローグ
「おい浜村ァ、お前タウン誌の『ラ・フェスタ』って知ってるか? ウチも広告出してるあの前衛的なイラストが表紙の…」
先月、ごきげん銀行本部、営業企画部広報課に赴任したばかりの俺が、交代で出て行った先輩からの引き継ぎ資料に添付されていた過去のテレビCMの企画書に目を通していると、斜め前に座っている広報課長の渡辺課長が、抑揚のない声で話しかけてきた。
俺は、企画書を無言でじっくり読んでただけなんだが、もしかしたら寝てると思われたのだろうか。
「あ、知ってますよ。あのコンビニに置いてある月刊誌ですよね?」
俺は課長の顔を見て、元気よくハキハキと答えた。
銀行員になって4年目の27歳。初めての転勤で、身上報告書で第一希望として書いていた営業企画部に、念願かなって転勤してきたばかり。
まだこの課では“お試し期間”でもあり、人間関係も構築されていない状況なので、まだ大した仕事は任されていない。
信頼を得ていないということでもあるので、できるだけ直属の上司である課長には、好印象を持っておいてもらうに越したことはない。
「お前が知ってるならちょうどいい。その『ラ・フェスタ』が今度ウチの若手女子行員の取材に来るんだけどさ。
お前、初仕事でその取材に立ち会ってこいよ。
毎月地元企業の若手女子社員がインタビューされてるやつ、あれの取材に来るんだよ。
あの有名な桐島サンっていう、カメラマン兼ライターが来るからさ」
“桐島サン”を知ってるもナニも、俺はそのタウン誌『ラ・フェフスタ』のことも、そのライター桐島隆史のことも、今この営業企画部のフロアにいる誰よりも知ってると言っても過言ではないくらい、よく知ってる。
そのタウン誌は俺の高校時代の同級生、桐島隆史が勤めている出版社が発行していて、しかもその桐島が『ラ・フェフスタ』のカメラマン兼ライターをしている関係で、俺も毎月定期購読しているのだ。
まあ、過去からの腐れ縁で定期購読させられているとも言えるが。
---初仕事がよりによって、桐島との仕事かよ…。
「はあ。かしこまりました。
で、取材はいつですか…?」
「お、なんだか急にテンション低くなったな。お前が嫌なら他の人に頼むけど?」
「嫌…ではないんですが…」
俺は言葉を濁した。
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