プロローグ

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桐島隆史は同級生ながら、高校を出てすぐその出版社に就職し、既に主任の肩書を得てタウン誌のチーフカメラマンをしている。 カメラマンとしての腕も確かで、雑誌の取材としての撮影だけじゃなく、ヤツの得意分野でもある自然を題材にした風景画では、県展入賞の常連でもある。  去年も、海に沈む夕日をモチーフにした風景画で特別賞を受賞し、県内にその名を知らしめていた。 そんなカメラマンとしては名を馳せたヤツは、爽やか系なイケメンでもあるが、残念なことにチャラ男でもある。 そしてカメラマンとして有名になればなるほど、チャラ男度にも磨きをかけている。 ヤツの周りにはいつも“オンナ”の影がチラついていて、確か高校時代からずっと、ガールフレンドが途切れたことがないはずだ。 一方俺は、自分でも悲しくなるくらい、パッとしない男だ。 高校ではヤツと同じ写真部だったけど、桐島とは正反対の地味ガリヒョロで色白の陰キャ。 世が世なら、“チーズ牛丼食べてそう”とカテゴライズされているであろう風貌だ。 もちろん性格もアウトドア派というよりインドア派で、写真の好みも室内で大人しく静物画を撮っているのが趣味だった。 “だった”と過去形なのは、カメラは大学でやめたから。 それ以来特に趣味もなく、なんとなく毎日を生きてきた。 もちろん女性と本格的にお付き合いしたことなどなく、仲良くなったとしても大抵“友達”止まり。良くも悪くも女性の印象に残らないタイプ。 仕事に関しては、大学3年の時の就職活動時に、なんとなく地元の大きな会社というだけでこの銀行を選んで、たまたま運良く採用になっただけ。 銀行員に是が非でもなりたかった訳でもないので、そんなに銀行員としての仕事にやり甲斐を感じているわけではない。 性格的にも、お客さんと触れ合うことが億劫なので、お客様対応のない本部ならやっていけるかと、初めての転勤に当たって身上報告書を提出する際に、本部勤務を希望。 その中で営業企画部を選んだのは、銀行のテレビCMを作っている営業企画部広報課なら、なんとなく銀行の本業とはかけ離れた、“お洒落”な仕事だと思ったから。 なんならウチの銀行のCMに出てる芸能人に会えるかも知れない…。 そんなゲスい志望動機だったが、たまたま営業企画部の若手男性行員に欠員が出て、偶然そのタイミングで身上報告書で営業企画部を希望していた俺が選ばれたというカラクリだ。 そんな行き当たりばったりの俺が、人生順風満帆で生きている桐島隆史に、プライベートならいざ知らず、社会人としてのスペックの差を否が応でも見せつけられる“業務上のカウンターパートナー”として会うのは、是が非でも避けたかった。
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