プロローグ

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課長の手から奪ったファイルは、人事部が保管している情報から、現住所や家族構成、親の職業等プライバシーに関することを省いた、九条さんの大雑把なプロフィールシートが挟まっていた。 書かれているのは、氏名と年齢、入行年度と現任店。 そして何故か出身高校、出身大学も書かれていた。 いわゆるデリケートな情報のはずの出身高校や大学名等の学齢が書かれているのは、おそらく“縦”の繋がりを重視する田舎特有の風習によるものだろう。 “キミはワシと同じ高校出身らしいな” “アイツはライバルの◯◯大学の学友だから…” などと、出身校で人間をカテゴライズする土地柄。 出身大学で派閥を作り、上下関係を構築する。 上の立場のものにしてみたら、自分の手駒となる後輩を手に入れることができるし、下の立場のものにしてみても、先輩に名前を知ってもらって可愛がってもらえれば、後々自分を引き立ててもらえる…なんて下心も働く。 俺自身、そんな威張れた大学を出ていないし、その大学の先輩後輩も銀行内に少ないので、上下の結束も強くない。 でも負け惜しみでは無く、そんな風習なんてクソ喰らえだと思っている。 社会人にとっては、「どこで勉強したか」よりも「何を勉強したか」が重要なはずだ。 ただ、そんなクソ喰らえと思っている風習だが、今だけは感謝だ。 ファイルに書かれていた九条さんの出身高校は、俺と同じ倉野川東高校。 通称“イチコウ”。 間違いない。 この九条さんは、あの“九条紗織”だ。 ------------------- あの九条さんが、桐島の取材対象だなんて…。 万が一、桐島が九条さんにも手を出したら…。 いや、間違いなく、手を出すだろうな。 俺は九条さんのプロフィールシートに貼られた顔写真を見て、そんな嫌な確信を抱いた。 おそらく入行式の後すぐに撮った写真らしく、銀行の制服は着ているものの髪は黒髪のストレートと、就活の延長線にあるような写真なので、高校時代の面影がまだ色濃く残っているが、顔立ちは少し大人びて、さらに綺麗になっていた。 元々美人というより、愛嬌のある顔と言った感じではあったが、その写真は、俺の心を再びザワつかせるには十分だった。 ---女たらしのチャラ男、桐島の魔の手から、俺が九条さんを守らなきゃいけない。 そんな使命感を胸に、俺は取材の立ち会いを引き受けることにした。
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