再会?

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再会?

「失礼しまーす」 取材当日の午後3時30分。 ごきげん銀行本部ビル、5階にある会議室の一室に、九条さんが一人でやってきた。 今回の『ラ・フェフスタ』の取材はこの会議室で行われることになっていて、本部のある広岡市内の中心部から少し離れた支店に勤務する九条さんは、支店を3時前に出て、電車に乗ってやって一人でここまで来てもらう手筈になっていた。 「桶屋町支店の九条です。今日はよろしくお願いします」 九条さんの元気な声が会議室内に広がる。 「営業企画部広報課の浜村です。こちらこそよろしくお願いします」 「あれ?お一人ですか? 記者の方はまだ…」 怪訝そうな顔で俺を見つめる九条さん。 その表情と口ぶりに、俺は少しだけ不安を抱いた。 ---あれ?8年ぶりの再会だよ? えらいあっさりしてるなあ。彼女、こんなにドライだったっけ? そんな不安を呑み込みながら、俺は俺で、自分の企みが露見しそうになったことに焦り、それどころではなくなっていた。 勘のいい子はキライだよ。 …キライじゃないけど。 「ん…、ああ『ラ・フェフスタ』さんね?『ラ・フェフスタ』さんは少し遅れるんだって」 俺は焦りを抑えながら、予め準備していた通り、そうウソをついた。 本来なら、取材する側の桐島に当然先に来てもらって、銀行としての打ち合わせや、カメラの準備を済ませ、準備万端になってから九条さんに来てもらうのがセオリー。 だけど今回は俺の勝手な一存で、桐島に指定した本来の取材開始予定時間の午後4時より早めに九条さんに会場に来てもらうよう、彼女にはウソの時間を伝えていたのだ。 桐島は、仕事に対しては真面目人間なので、準備のため、おそらく指定された午後4時の15分前、午後3時45分にはここに来るだろう。 桐島が先に来て準備を済ませてしまえば、後は彼女が来るのを待つだけになってしまう。 取材の準備ができてから彼女が来たら、間違いなくそのまま取材が始まってしまう。 せっかくの再会なのに、俺と彼女が二人だけになる機会もないまま終わってしまう可能性が高い。 ---桐島が取材と称して彼女を口説きはじめる前に、彼女をこっち側に取り込んでおかなきゃ…。 そう考えた俺は、ウソの待ち合わせ時間を伝えたという罪悪感を、“彼女を守るための必要悪だ”と無理やり正当化させていた。 ちなみに、取材の開始時間はもっと早い時間にに設定することもできた。 広報担当の俺にとってはこれが仕事だし、支店勤務の彼女にとっても、銀行の指示で、仕事として受ける取材なので、本来なら何時だっていい。 でもその開始時間を午後4時にしたのは、俺の一存。 九条さんが取材終了後、職場に戻らず直帰できるようにするためだ。 九条さんの利便性のためにもその方がいい…と気を利かせただけじゃなくて、あわよくば取材の後、桐島を先に帰らせ、そのあと二人で食事にでも行けたら…。 なんて下心も、あるにはあるのだが…。
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