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狭い部屋の中では、体が大きいことは得にも損にもなる。
単純に考えれば、大きな体だと狭い場所では動きづらい。その為小回りの効く僕達の方が、向こうの攻撃は避けやすい筈だ。
一方で、僕達も満足に動けない状況であれば、大きな体は脅威にもなる。攻撃の範囲が広ければ、狭い部屋を一発で薙ぎ払うこともできる……即ち、僕達には殆ど逃げ場がないとも言える。
「今聴くことじゃねぇとは思うが、こりゃあれか? お前が言ってた化け物か? 」
「そうです! 信じてくれました⁉︎ 」
「信じざるを得ないだろうが‼︎ 」
食糧庫の壁に亀裂が走った。
青い狼人間は長い腕を振り回し、僕達を叩き潰そうと暴れている。ここで銀の弾丸を撃つことも可能だが、流れ弾が当たってしまったらと思うと中々動けない。いつもなら先生か編集長が動きを止めてくれるが、今はそれも頼めない。攻撃を避けるだけで精一杯だ。
「ライカ君、このままだと部屋が壊れそうだよ。あいつは平気かもしれないけれど、私達はぺちゃんこ。平べったくなっちゃうかもね」
先生が床に伏せながら呟いた。
なるほど。直接僕達を倒せなければ、食糧庫ごと潰してしまうつもりか。一つが駄目でも別の手段を用意しておく。用意周到さは「らしい」と言うべきか。
「んじゃ、こっから出ることが優先だな? ヴァルツ号、頼むぞ」
すると警部は、何やらヴァルツ号に指示を出した。
命令を聞いたヴァルツ号は、短く吠えると果敢に狼人間に飛び付いた。体の小さなヴァルツ号は、相手の長い腕をすり抜けると、尖った鼻先に力一杯齧り付く。
オォォォォォォォ‼︎
初めての明確な反撃に、狼人間は怯んだ。
ヴァルツ号を振り落とそうと、激しく頭を揺さぶる。それから壁に体をぶつけ、鼻先の痛みから解放されようと必死に暴れ始めた。
「さぁ今だ。あいつが気を取られている隙に」
「素晴らしいわんこだねぇ。人間よりずっと優秀だよ」
「馬鹿にしてんのか? ……ヴァルツ号は適当な所で帰ってくる。行くぞ」
からかう先生とぼやくハンス警部。
僕達は狼人間の脇をすり抜けると、食糧庫から脱出した。
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