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啖呵を切ったはいいものの、今の先生はまともに戦えない。
ベルベットがどの程度の力を持っているか知らないが、少なくとも伯爵と同等……いや、それ以上であることは間違いないだろう。
「なぁライカ君。可能ならでいいんだがね」
ベルベットから目を逸らさず、先生は呟いた。
「あいつが持っていた『月の光』、取ってこれないかい? 」
「……善処します」
「月の光」があれば、先生も狼人間に変身できる。
瓶はベルベットが持っているが、ベルベットもあれを狙われることは想定済みだろう。無理をして狙うよりも、弾みで落とすことを狙った方が良いかもしれない。
フウゥゥゥゥゥゥ……
すると背後から、低い唸り声が聞こえた。
振り向くと青い狼人間……アイオネルが、ヴァルツ号を掴んで地下からの階段を登ってくる。鼻先からは血が流れていたが、それも即座に塞がっていく。足止めには成功したものの、ダメージは少ないようだ。
「編集長と警部は伯爵を。私とライカ君で夫人をやろう。いいね」
「あぁ。そっちは任せた」
先生と編集長が、背中合わせで納得した。
「ったく。民間人が無理すんじゃねぇぞ」
警部は相変わらずぼやいていたが、相棒が捕まったことには怒りを覚えているようだった。銃を握る手に力が篭り、引き金に指が掛かる。
「お話は終わりまして? では……」
ベルベットの爪がぎらりと光る。
そう思った次の瞬間、彼女の足下、石で出来た床がざくりと削れた。
「どなたから頂こうかしら? 」
始まりだ。
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