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正直、編集長と警部に構っている余裕はない。
使える弾丸は二発。アイオネルの分も考えれば、撃てるのは一発。
「銀の弾丸をお持ちのようですが……」
銃口を向けようとする僕に対し、ベルベットは巧みに狙いから体を逸らす。
「当たらなければただの玩具ですわ」
そして僕の懐に飛び込み、真紅の爪で胸を貫こうとする。
「おっと困るなぁ。ライカ君に触っていい狼人間は、私だけだよ」
しかし先生が割って入り、ベルベットの腕を掴んだ。
一瞬の隙を突いて銃口を向けるが、ベルベットは掴まれた腕ごと先生を持ち上げた。そして綺麗な弧を描いて投げ飛ばし、床に叩きつける。
「その姿で私に勝てるとでも? 」
「それは『私が変身できれば勝てる』って意味でいいかな? 」
咄嗟に受け身を取りながら軽口を叩く先生。
床は見事に沈んでいるのに、まるで痛みを感じていないみたいだ。
「そちらの手の内は分かっています。ラピス先生が私の気を引き、その隙にライカさんに『月の光』を取らせるつもりでしょう」
「バレてたか。私達の内緒話なんて、狼人間の耳には隠せないよね」
そういって先生、片手をひらひら。
握っているのはベルベットが持っていた「月の光」の瓶。
「だから私一人でやることにした。ライカ君ごめんね。君の出番がなくて」
「あ、はい、そうですか」
腕を掴んだ時か、はたまた投げられる直前か。
先生はベルベットの手から瓶を奪ったようだ。結果オーライなのはいいけれど、正直「どうやってやろうか」と頑張って考えていたのに。
「さて、これで勝ったも同然だ。聞いた話が全て真実だと思わないことだね」
「戯言を……」
目を真紅に光らせるベルベットの前で、先生は「月の光」を飲み込んだ。
黒髪の中から突き出た三角の耳、口の隙間から覗く牙、黒い毛に覆われた手。純白の毛を持つベルベットとは正反対の色……黒い狼人間の登場だ。
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