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姿を変えた先生は、迂闊に飛び掛かることは無かった。
体を低く構え、二本の手を地面に付けて。殆ど四足歩行と言っていい姿勢を取りながら、ベルベットの周りを注意深く回っている。
対するベルベットも、真紅の瞳を輝かせたまま先生をじっと見つめていた。僅かでも隙を見せた方がやられる……緊張感が僕にまで伝わってくる。
「っとライカ! ぼさっとすんじゃねぇ‼︎ 」
すると背後から、編集長の声と共に本棚が飛んできた。
そうだ、敵はもう一人いるのだ。僕達は二手に分かれたけれど、向こうもそれに従ってくれるとは限らない。いや、寧ろ常に狙われていると思わないと。
「そっちはどうですか? 」
「あの警部、結構やるな。いや、犬がかもしれんが」
伯爵に掴まれていたヴァルツ号は、もうすっかり元気を取り戻していた。
警部の的確な指示に従い、足元に噛み付いたり顔を引っ掻いたりと、縦横無尽の大活躍。警部も隙を見ては発砲しているものの、狼人間相手では分が悪い訳で。
「うちも犬を雇うかなぁ。案外役に立つかもしれん」
「先生は犬みたいなものじゃ? 」
「あれはなんだ。その、ほぼ人間だろ」
それは確かに。
最も今の先生は、黒い毛皮を纏って四足歩行なんだけど。
「ま、お前はラピスを見てやれや。俺はあの警部と犬をどうにかする」
「了解です」
何があっても、僕は先生の担当。先生に僕は必要なのだ。
……さっきは出番を取られたけどね。
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