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二匹の獣が動いたのは、ほぼ同時だった。
先生は右手を突き出し、いきなり相手の顔面を狙った。空かさず首を傾けて避けるベルベット。即座に膝を振り上げ、先生の顎を砕こうとする。
しかし先生はそれを避けようとせず、逆に迫りくる膝に噛み付いた。ベルベットの純白の体毛に血飛沫が飛び散り、赤い斑点模様を描く。
「……あまり長くは舐めたくない味だね」
「あら。高貴な血はお口に合わなくて? 」
言葉を交わしながらも、ベルベットは先生の首を左手で掴んだ。
そのまま爪を立てて肉に食い込ませ、地面に叩きつける。鈍い音が響いて血が流れるが、先生はそれを物ともせずに、こちらに向かって跳んできた。
「やぁライカ君。私はさっき『変身すれば勝てる』的なことを言っただろ」
「そうでしたね」
「前言撤回だ。ちょっとでも気を抜いたらやられる」
先生がこうも弱音を吐くのは珍しい。
「私一人じゃ無理だ。君の弾丸を使いたいが……そう隙を見せるとは思えないんだよなぁ。私が抑え込んだとしても、すぐに返されそうだよ」
「……それじゃあ」
ならば発想の転換だ。今までは先生が動きを止め、僕が止めを刺していた。
しかし狼人間は銀の弾丸でしか倒せない訳ではない。治癒不能な重傷を負わせたり、頭を吹き飛ばしたりすれば流石に死ぬ。つまり。
「僕が相手を止めて、先生が倒すってことで」
「分かったよ。今度はちゃんと、君の出番も残しておくさ」
一発しか使えないなら、その一発を有効に使えばいいのだ。
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