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僕には爪も牙も、並外れた力もない。あるのは銃が一つだけ。
しかしそれは必殺の弾丸。ベルベットは僕がそれを持っていることを知ってか、迂闊に接近してくることはなかった。正面からでは敵わないが、一つ武器があるだけで反応は変わる……ある意味では、僕は先生より有利。
「厄介なものをお持ちのようで……」
「そうだぞ。ライカ君は銃があれば強いんだぞ。あればだけど」
褒めているんだか馬鹿にしているんだか。
取り敢えず、足を撃てば動きは封じられるだろう。但しベルベットは、目を合わせた相手を操る能力を持っている。迂闊に近寄ってこないのは、それを狙っているからかもしれない。油断は禁物だ。
「どうやら優先すべきは、こちらのようですね……」
そう呟くと、ベルベットはこちらに突っ込んできた。
「ほんの」と思う間すらなかった。ベルベットは既に僕の顎の下。
「っ⁉︎ 」
咄嗟に後ろに下がるものの、真紅の爪が鼻先を掠める。
そしてもう片方の手が、僕の喉を突き刺そうと迫ってくる……しかしそれは、彼女が僕に最大限接近しているということ。
「この距離なら‼︎ 」
故に、撃った玉を避けることは叶わない。
僕の弾丸が唸りながら飛んでいく。同時に喉に爪が刺さる。首に冷たさが走ると共に、ベルベットの二の腕に弾丸が突き刺さるのが見えた。
視界が赤で埋まっていく。鋭利な爪の一撃は、痛みを感じることもなかった。ただただ首に冷たさが走り、鉄の匂いが広がる……
「よくやった。もう少し待ってな」
先生の声がしたかと思うと、ベルベットの腹に拳がめり込んだ。
勢いよく白い体が浮き、壁に叩きつけられて鈍い音がする。僕が銃を撃ってからここまで十秒も経っていなかった。
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