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首から血が止まらないが、まだ意識ははっきりしている。
僕は首を手で押さえて立ち上がると、先生が肩を貸してくれた。
「ご苦労様。うまいこと命中したみたいだ……これで終わりだろう」
壁に凭れるベルベットを見ると、二の腕に銀の弾丸が刺さっている。
よかった。本当に命中していた。銀の弾丸は狼人間にとって猛毒だから、奴は遅かれ早かれ死ぬ。心臓や脳ではなかったから、まだ辛うじて息はあるようだが……文字通り《必殺》の武器。当たればこちらの勝ちだ。
「肉を切らせて骨を断つとは、このことですね……」
白い毛皮を紅に染めたベルベットが呟いた。
「ライカさん。己を犠牲にしても私を撃つとは、大したものですわ……そこまでは予想できませんでした……」
「余計に喋るんじゃないよ、と言う所かもしれないけどさ。喋った方がとっとと死んでくれるかな? だったらどんどん喋っていいよ」
軽口を叩きながらも、先生はベルベットから目を離さない。
「いえ。こうなったらもう、私も長くないでしょう……」
ベルベットの片腕が力なく垂れる。弾丸が刺さった方の腕だ。
「ですが骨を断った程度で、私を倒せると思ったら……」
瞳が真っ赤に輝く。
「……大間違いですわ」
そう言うと、ベルベットの口が大きく開いた。
牙が月光に照らされぎらりと輝く。それは柔らかな白肌……己の二の腕に浮き刺さったかと思うと、そのまま万力のように顎を閉じる。
ぶつっと嫌な音を立て、肉の繊維と骨が折れる。断面から濁流のように血が流れたものの、これは「牙で裂かれた傷」。銀の弾丸による傷ではない……それはつまり「瞬時に治る傷」であることを意味する。
「参ったな。ライカ君はここで待ってろ」
「でも、僕も……」
「その傷じゃ無理だ。それに言うだろ。『手負いの獣ほど恐ろしいものはない』って。あいつ、さっきよりも強そうだよ」
先生は僕を壁に寄りかからせると、僕の前に立ち塞がった。
「君は十分頑張った。ここから先は、私が頑張る番だ……君の体は簡単に再生しないんだから、もっと大事にしないと駄目だぞ」
それから瞳を金色に輝かせ、全身の毛を逆立たせる。
「骨を折らせて命を奪ってくるよ。任せな」
そう言って、隻腕となったベルベットに飛び掛かった。
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