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「待ちやがれ! 」
爪が肌を掠めた瞬間、編集長が振ったライフルがベルベットを直撃する。
単純に火力を突き詰めただけの武器。その一撃はベルベットの肉を裂き、脇腹に深々と傷を付ける。
続いて警部の撃った弾丸が、アイオネルの鼻に刺さった。ダメージは然程ではなさそうだが、そこに更にヴァルツ号が噛み付く。狼人間の鼻先は犬のように敏感な反面、弱点でもある……二重で攻撃を喰らえば、流石に堪ったものではないだろう。
「ちょっと遅かったなぁ。私の綺麗な顔に傷がついたじゃないか」
「こちとら普通の人間なんだ。無茶言うんじゃねぇ」
力が緩んだ隙を突いて、先生が乗っていた足を押し除ける。
右目から頬にかけて、縦に細い傷が付いている。そのうち治るだろうけれど、片目を瞑って血を垂らしている様子は痛々しい。
「なぁラピス。こいつらどうやったら倒せんだ? 」
「頭を吹っ飛ばすとか、心臓を潰すとか……まぁ生き物が即死するようなことをすれば、大体死ぬと思うよ」
「当たり前だが、それが難しいんだよなぁ……っ⁉︎ 」
そう言った時、吹き飛んできたヴァルツ号が警部の腹に直撃した。
同様に編集長も、ベルベットの蹴りを頭に喰らって倒れる。文字通り「一撃」。踏み潰されても平気な先生が、如何に人外であるかを思い知らされる。
「あらら、これでまた二対一かぁ」
「余計な邪魔が入りましたが、今度こそ終わらせます……」
再び壁際に追い詰められる先生。
どうしよう。今動けるのは僕だけだ。動けると言っても、辛うじて腕を伸ばすくらいだけど……この弱い体で、何か僕に出来ることは。
「大人しく引き裂かれなさいっ‼︎ 」
アイオネルとベルベットが飛び掛かる。
咄嗟に上に飛んだ先生は、壁を蹴って反対側に跳んだ。更に着地と同時に腕を振るい、先生に目を向けたベルベットの顔を切り裂く。
「悪いね。付けられた傷は返したくなるタチでさ」
一時的だが両の目を潰したことで、ベルベットの催眠は使えなくなった。
しかしその傷を見た瞬間。
グアァァァァァッ‼︎
血走った目のアイオネルが、先生の腹を爪で突き刺した。
着地の隙の、ほんのわずかの間。その一瞬を狙われたのだ。
「っ……これは、なかなか……」
先生の口から黒い血の塊が飛び出る。
何とかしないと危ない。そう思って千切れそうな首を回した時。
僕の視界に、先程噛みちぎられたベルベットの腕が映った。
その腕には、僕が当てた銀の弾丸が残っていた。
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