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首から流れる血で、体はすっかり鉄の匂いに包まれている。
それでも何とか腕を動かし、芋虫のように這う。幸いと言っては何だが、アイオネルとベルベットは先生に気を取られて僕には気を止めなかった。
残っている弾丸は一発。二人を倒すには足りない。だけど先程ベルベットが自ら切り落とした腕……あれを使えばやれるかもしれない。
「……よし」
全身が限界だと悲鳴を上げている。
だけど先生なんて「骨を断たせて命を奪ってくる」と言ったのだ。人間と狼人間。体や能力は違っても、やるべきことは変わらない。
「おい、お前達! 」
掠れた声で叫ぶ。
普通の人間なら気づかなかったかもしれない。しかし相手は常人よりも聴覚に長けた怪物だ。微かな僕の声に耳を動かし、こちらを振り向いた。
「……まだ生きていましたか」
ここまで追い詰めても、やはり銀の弾丸を持つ僕は恐ろしいらしい。
ベルベットは先生をアイオネルに任せ、つかつかとこちらに寄ってきた。
「その口を完全に塞がないといけないようですね」
「やれるもんなら……やってみろよ……」
強がってみるが、当然ベルベットには通用しない。
彼女は鋭い牙が並んだ口を大きく開き、僕の首を完全に噛みちぎろうと迫ってくる。真っ赤な口内が目の前に広がり、全身が一瞬硬直する。
「ご安心を。貴方の体は美味しく頂きますので」
「そうか……」
首元に歯が刺さる。その直前。
「だったらこれでも食ってろよ‼︎ 」
僕は背後に隠していた、ベルベットの千切れた腕を突き出した。
同時にベルベットの顎が閉じる。腕に歯が突き刺さり、肉が裂けるのがはっきりと分かる。激痛と共に血が滴り落ち、床の赤い水溜りが更に広がった。
しかしそれは、彼女が「銀の弾丸の埋め込まれた腕」を飲み込んだことも意味していた。鋭利な牙は銀の弾丸を噛み潰し、その猛毒は瞬時に体内へと流れ込んでいく……怪物は僕の罠に掛かったのだ。
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