【5】発見と闘争

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 ベルベットは口に腕が刺さったまま、どさりと崩れ落ちた。  それを見てか、アイオネルは他の人間を無視してこちらに突進してきた。鋭い爪を立て、僕を完全に引き裂こうと腕を持ち上げる。 「っと。それはさせないよ……」  だがその腕が振り下ろされることはなかった。  アイオネルの背後から駆け寄った先生が、完全に無防備になっていた頭部にしがみ付く。それから口を開くと、頸目掛けて思い切り歯を突き立てる。  オアァァァァァァッ‼︎  堪らず悲鳴を上げるアイオネル。振り上げた腕を慌てて振りまわし、必死に異物を振り落とそうと暴れる。それを先生は巧みに躱し、アイオネルの体に捕まったまま……行き場を失った腕は、先生ではなくアイオネル自身を傷つける。 「あと一発残ってるだろ。撃てるかい」  飛び降りた先生が僕に尋ねる。  銃を持つ腕に力を込めようとするものの、僕の体はとうに限界を超えていた。それを無理やり動かして、ベルベットに腕を突っ込んだから……普段は難なく持てる銃ですら、今は余りにも重く感じてしまう。 「了解だ。最後は任せろ」  僕の返事を聞くまでもなく、こちらの状況を察してくれたらしい。  再び向かってくるアイオネル。もはや狙いも何もない、ただ怒りに任せた突進だ。先生はふっと笑うと、怯むことなく正面から向かっていく。 「なかなかやるね。久々に死ぬかと思ったよ」  アイオネルの拳を避け、腕を突き出して喉を掴む。 「だけどお仲間に構ってばっかじゃ駄目だよ。適度に見放すくらいの気持ちがないと、こういう勝負には勝てないものさ……」  爪が肉に刺さる。そのまま一気に押し倒す。 「奥さんを傷つけられて怒るようじゃ、まだまだ甘っちょろいね」  そして腕を横に薙ぎ、アイオネルの首を引き裂いた。
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